陸上自衛隊の令和3年度富士総合火力演習(陸上自衛隊のサイトより)

 2月のロシアによるウクライナ侵攻などの厳しい国際情勢を受けて岸田文雄首相は「防衛費の相当な増額」を表明した。

 そして11月22日には防衛力の在り方に関する報告書が出され、28日には防衛関連費を令和9(2027)年度には対GDP(国内総生産)比2%にする方針を打ち出した。

 その後、財務相と防衛相に今年末の戦略3文書の改訂に合せて5年間の防衛関連費の総額を約43兆円とするように指示した。

 しかし、この総額は現「防衛計画の大綱」で示してきた防衛コンセプトを実現するに必要な「防衛費」*1や、思いやり予算と言われるSACO(沖縄に関する特別行動委員会)や在日米軍の再編に関わる経費なども含めた防衛白書(令和4年版)でいう「防衛関係費」2ではなく、「防衛関連費」3となっている。

*1=SACO、米軍再編、政府専用機、国土強靭化を除く防衛省・自衛隊本体分

*2*1にSACO、米軍再編、政府専用機、国土強靭化を含む

*3*2に海保、公共インフラ、研究開発、国際的協力、サイバーを含む

 安全保障が宇宙・サイバー・電磁戦(ウサデン)領域まで広がり、世論操作の認知戦も重要になってきた。

 サイバー攻撃を受けて兵器や弾薬の生産ができなくなる危惧もある。こうしたことから、事前に兆候を探知して先制攻撃にならない範囲で反撃能力を保有することにした。

 防衛コンセプトが変わり、海上保安庁も防衛活動の一環であり、サイバー対処や国際的協力も安全保障問題と捉えるのは大切である。

 首相はこうした視点から、従来他省庁の所管であった海保や有事に使用が期待される南西諸島の空港・港湾などの公共インフラ、研究開発、国際的協力、サイバーなどの経費も防衛関連費として包含するように指示した。

 日本の安全が海保と密接に関係し、またインフラ整備や研究開発、国際的協力、サイバーなどに関わっているという認識は重要である。

 しかし、それらは他省庁が例年要求・執行してきたものである。防衛省への付け替えで、防衛省予算を増加させたと見せかけるのは羊頭狗肉でしかない。

 防衛省・自衛隊は予算の制約(不足)から隊員未充足の状況にあり、また教育・訓練等が十分ではない。

 兵器・装備とそれらの整備用品や弾薬・ミサイルの備蓄は不足し、また偏在している。ウサデンに至っては脅威対象国に比して著しく劣弱である。

 自衛隊の不備を補い、真に機能するように精強化ことが求められ、そのレベルがNATO(北大西洋条約機構)並みの対GDP比約2%ではなかったか。

 そうした不備があったところに次年度からは反撃能力の保有まで加わった。