蘭州ラーメンの担い手の多くは蘭州人ではない

「蘭州拉麺(らんしゅうラーメン、兰州牛肉面)」は、牛肉のスープに手打ち麺が入った料理です。日本のラーメンとはとくにスープに違いを感じるでしょう。

オフィス街や住宅街、どんな街角にも必ず「蘭州拉麺店」がある

 蘭州市(兰州市)は、中国西北部にある甘粛省の省都で、人口約400万人という大きな都市です。

 実は、多くの「蘭州ラーメン」店は蘭州市ではなく、さらに西にある青海省化隆県(化隆回族自治県)という地域の出身者によって経営されています。70~90%の蘭州ラーメンは化隆県出身者によって経営されているようです。

 化隆県は、蘭州と同じようにイスラム教徒の少数民族である回族が多く居住している地域です。砂漠や荒れ地の多い中国西北部でも特に生活環境が過酷であり、2010年代でも住民の半数以上が貧困世帯に分類されているほど生活の厳しい地域です。

 この苦境を変えたのが「ラーメン経済」でした(「(拉面经济:贫困地区群众脱贫致富奔小康」、http://f.china.com.cn/2017-10/20/content_50041759.htm)。

 1980年代以降、中国では経済の自由化が進み、化隆県から中国沿岸部へ出稼ぎにいくことが増えました。当初は主に工場労働者としての生活を送っていたようですが、「化隆ラーメン」を中心とした飲食業を始める化隆人が大都市で増加しました。化隆ラーメンの作り方が蘭州ラーメンに近かったことに加え、中国では蘭州の知名度が高いことから、化隆県出身者のラーメン店は「蘭州ラーメン」を名乗るようになりました。

「蘭州ラーメン」がうまくいった化隆県出身者は、同郷の人間を故郷から呼び出すことでさらに事業が拡大。化隆人による「蘭州ラーメン」は中国全土に広まっていったのです。ただ化隆県は青海省にあることから、「青海ラーメン」と呼ぶこともあります。

 2005年には、化隆県政府がラーメン経済に本格的な支援を開始しました(「关于促进青海拉面产业高质量发展的提案」、http://www.haidong.gov.cn/html/383/101724.html)。料理人の教育プログラム制定や店舗立ち上げ金の支援、さらには広州市などの大都市に出先機関を置き、ラーメン産業の普及を推進しています。

 各地に出店した蘭州ラーメン店や関連産業の成長により、化隆県では貧困人口が70%以上減少したそうです。