「薄さ」を表現するのに使えるたとえ

 専門用語を使うのは楽だ。微妙なニュアンスも含めて一言ですむ。それを噛み砕いて説明しようとすると、かえって難しい。専門用語を使っている当人たちにとっては当たり前すぎることだから、逆に説明しづらいのだ。

 でも、子どもにも分かるように説明しようとして初めて、自分自身も実は「分かったつもり」になっていただけで、言葉の本質を理解できていなかったことに気づくこともある。

 専門的な内容を分かりやすく伝えるためには、まず、自分の中で言葉とイメージを結びつけていく作業が欠かせない。

 現物を見て分かるものなら現物を見る。現象を指すものなら、その現象を観察する。目に見えないものは、「何か他に似たようなものはあるだろうか?」と考える。自分より詳しい人に聞いてみるのも手だ。

 私はものづくりの現場を取材しているが、部品の名前だったり、加工方法だったり、聞いたことのない言葉に出会うことがある。そんな時はチャンスである。

「それはつまりこういうことですか?」と自分の仮説をぶつけてみたり、「何かにたとえるとしたら、似たようなものはありますか?」と相手に聞いてみたりする。とにかく自分の頭の中にイメージが見えてくるまで聞く。

 日常でも、カタカナ語など耳慣れない言葉はあふれている。そんな時、「それって、たとえるなら?」とゲーム感覚で考えてみる。「なぞかけ」のようなものだ。

 それでいい表現が思いついたら、実際に使って相手の反応を見る。分かったようなそうでないような微妙な反応なら、もっといい表現はないかと考える。それを繰り返して、表現を磨いていく。

 数字は、比較対象となるものの数字をおさえておくとよい。

「薄さ」をたとえるならコピー紙の厚みや髪の太さ、「高さ」をたとえるなら建物1階分の高さや有名な建造物の高さ、「容積」なら25mプールや一般家庭の浴槽の容積など、誰もがイメージしやすいものの数字を調べておくと役に立つ。

 親と子ども、先生と生徒、医者と患者、技術部門と事務部門……。皆、それぞれの立場があり、背景がある。異なる立場にいる人を結びつける「通訳者」になったつもりで、伝え方を工夫してみると、実はその物事に対する自分自身の理解が一段と深まるというおまけが付いてくる。