謎めいた男の人物像
本誌エコノミストが「The Prince(太子)」と題したポッドキャストを8部構成でお届けすること、そして今週号の特集記事で習氏を取り上げたことの狙いはそこにある。
習氏を間近で、あるいは離れたところから観察してきた数十人の人々がインタビューに応じ、何が習氏を駆り立てているのかを説明してくれた。
その結果、中国にとっても世界にとっても困った影響を及ぼしかねない計画を持つ、謎めいた男の人物像が浮かび上がってきた。
習氏の計画の中心にあるのは、多くの人々の生活の場から姿を消していた共産党を再興することだ。
習氏は文化大革命の時代に成年に達した。
忠誠心が不十分だと見なされた知識人や役人などを攻撃するために毛沢東が紅衛兵を動員し、社会をひっくり返した時代のことだ。
習氏の父は拷問を受け、腹違いの姉は自ら命を絶った。習氏自身も勤労の徳を身につけるために農村に送られ、洞窟で7年間暮らした。
紅よりもさらに紅く
共産党の説によれば、この経験によって習氏は特権を付与された太子から庶民の味方に変わった。
米国の外交公電に引用された情報源は違う見方をしていた。習氏は「紅(アカ)よりもさらに紅くなることで」生き延びたというのだ。
実際、毛沢東による粛清の後に習氏は共産党を拒絶せず、むしろ党の再興に献身している。習氏の考えでは、あのような混乱の再発を防ぐことができる機関は共産党を置いてほかになかった。
そう考えると、共産党は再び迷走しているとの見方が多かった2012年に、党の指導部が習氏を選んだことは理にかなっていた。
この状況から党を救い出すには規律と新たな使命感が必要だと考えたわけだ。
習氏はその期待に応え、党に厳しい規律をもたらした。反腐敗運動は党内の雰囲気を変え、習氏がライバルを粛清する手段にもなった。
習氏はそれ以降、生活のすべての側面に共産党を再注入している。
民間企業の内部に党の委員会が設けられたほか、地区レベルの共産党委員会がよみがえり、草の根の党員が「ゼロコロナ」政策の施行に協力している。
また習氏は、中央省庁を監視する新たな権限を持った党組織も新設している。「政府、軍、社会、学校、東西南北中――これらすべてを党が領導する」のだという。