4月11日、海南省五指山市を視察した習近平主席(写真:新華社/アフロ)

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 菅義偉前首相の表明によって、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする脱炭素社会の実現を目指すこととなった日本。これに先駆けて、2030年までに脱炭素化を目指す自治体などの「脱炭素先行地域」の第1弾に、19都道府県の26カ所が選ばれた。4月26日に環境省が発表した。

 このうち、例えば横浜市のみなとみらい地区は、建物のおよそ半分を脱炭素化する計画だが、なかでも注目なのは――というより、実際にNHKが全国放送で取り上げていたのは、北海道の上士幌町の取り組みだった。

 NHKの報道によると、北海道の十勝地方にある上士幌町は、人口がおよそ5000人に対して4万頭以上の牛が飼われている酪農が盛んな地域。そこで町が「脱炭素」を実現するための資源として活用しているのが、牛のふん尿だった。牛は1日に1頭あたり60キロのふん尿を出す。その悪臭が問題となっていた。

 そこで、このふん尿を発酵させてメタンガスを作り出し、燃焼させて発電する施設を5年前から整備。現在は町内に7つの施設があり、町全体の消費電力のおよそ3分の1にあたる量を発電していて、二酸化炭素を実質的に排出せずに電力を確保できる。そればかりでなく、ガスを抜くことで悪臭も軽減され、脱炭素と地域の課題解決を両立できるという。

 ふん尿を利用する取り組みは隣の鹿追町でも実施されていて、やはり「脱炭素先行地域」に選出されている。

 ただ、この報道に接した時、私の頭の中には図らずも中国の国家主席の顔が浮かんでしまった。

 家畜のふん尿ではなく、人間のふん尿利用は、実は習近平の“英雄伝”として中国では喧伝されているところだからだ。

寒村に下放された若き日の習近平

 習近平は1953年に北京で生まれた。父親の習仲勲は、毛沢東と革命戦争を戦い、国務院秘書長兼副総理(副首相)まで務めた中国共産党の幹部だったが、近平が9歳の時に失脚する。それまで共産党幹部の子息としてエリートの道を歩んでいたはずが、中南海の家を追われ、生活すらままならなくなった。

 やがて1966年から文化大革命がはじまると、毛沢東の指示によって、教育を受けた都会の「知識青年(知青)」を地方の農村地域に送り込み、思想改造と肉体労働に従事さる「下放」もはじまった。習近平も69年に最年少の知青として、地方に送られる。その場所が、陝西省延川県の梁家河というところだった。

下放当時の習近平(左から2人目)