危険運転致死罪になる証拠がない?
遺族はこのとき、検察から次のような説明を受けたと言います。
「検事は、『Aは直線道路をまっすぐに走行しており、危険運転致死罪と認定し得る証拠がなかった』と言いました。また、『時速194キロで危険運転という判決にならなかったら、それが前例になるので最初から闘わない』とも……。でも、事故現場の道路は、アウトバーンではありません。法定速度60キロの、交差点や信号機もある一般道です。そのような道で時速194キロも出して、とっさに危険を避けられるのでしょうか。今の法律には、『安全に止まる=制御』という点については含まれておらず、論点にもならないようで、愕然としました」
ちなみに、「危険運転致死傷罪」にあたる6つの構成要件は以下の通りです。
1)『酩酊危険運転』
アルコールや薬物の影響で正常な運転が困難な状態で車を走行させる行為
2)『高速度危険運転』
運転の制御ができないほどの速度で車を走行させる行為
3)『技能欠如危険運転』
無免許など、技術がない状態で車を走行させる行為
4)『通行妨害目的危険運転』
人や車の通行を妨害する目的で、幅寄せや割り込みなどを行い、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で車を運転する行為
5)『信号無視危険運転』
赤信号などを、ことさら無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で車を運転する行為
6)『通行禁止道路危険運転』
通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で車を運転する行為
以上のような危険な運転行為をして、人を負傷させ、裁判で「危険運転致死傷罪」にあたると判断された場合は、その運転者に対して、15年以下の懲役。人を死亡させた場合は、1年以上の有期懲役(20年以下)が科せられます。
今回の事故では、Aの行為が、2)の「高速度危険運転」にあたるかどうかが問題となるわけですが、先にも書いた通り、検察は「まっすぐに走れていた」ことを理由に、「制御できないほどの速度とは言えない」と判断し、「過失運転致死傷罪」で起訴しました。「過失」の場合、懲役は最高でも7年以下となり、「危険運転」と比べると、罪の重さには大きな差が生じます。