まだ実現しないノックアウトの打撃
問題は、ノックアウトの大打撃がまだ具現化していないことだ。
国際通貨基金(IMF)によれば、ロシアの国内総生産(GDP)は2022年に6%縮小する見通しで、今年3月に多く見られた15%減という予想よりもかなり小さく、ベネズエラで観察された経済不振よりも小規模だ。
エネルギー販売によって今年の経常収支は2650億ドルの黒字になり、中国に次ぐ世界第2位の黒字国になる見込みだ。
一度は苦境に陥ったロシアの金融システムも落ち着きを取り戻しており、一部の輸入品については中国など新たな供給国が確保されている。
片や欧州では、エネルギー危機によって景気後退が引き起こされる恐れがある。
ロシアが供給を絞ったことを受け、天然ガス価格は8月第4週だけでさらに20%も上昇した。
制裁という兵器にはいくつか欠点があることが分かってきた。
まず挙げられるのはタイムラグの存在だ。
西側が独占している技術の利用を阻止しても、その効果が出るには数年を要する。
また独裁国家は国内の資源を集めることができるため、輸出入禁止措置による最初の打撃を吸収することに長けている。
次に、制裁相手からの反発がある。
GDPで言えば西側はロシアよりはるかに大きいものの、プーチン氏はガス供給の元栓をしっかり支配しており、たとえ祈ってもそれが変わることはない。
そして最大の欠点は、世界のGDPの40%を占める100カ国以上の国々が通商禁止を一部、あるいはまったく実行していないことだ。
ウラル山脈の原油はアジアに流れ込んでいる。ドバイはロシアマネーであふれ返り、モスクワにはエミレーツ航空などの旅客機が1日7便飛んでいる。
グローバル化した経済はショックや機会にうまく対応する。ほとんどの国が西側の政策を実行したくないと思っているのだから、特にそうなる。