西側の新たなドクトリン

 そのような野心的な目標の背後には、西側の新しいドクトリンがある。

 米国の強さが抜きん出ていた1990年代の一極支配は遠い昔の話となり、イラクやアフガニスタンの戦争以降は西側諸国が軍事力の行使に消極的になっている。

 そんななか、21世紀の経済の中心に位置する金融や技術のネットワークの支配を通じて西側が力を行使できる制裁が、こうした問題の答えになると思われた。

 そして過去20年にわたり、制裁は人権侵害を罰したり、イランやベネズエラを孤立させたり、華為技術(ファーウェイ)のような企業の活動を妨害したりするのに利用された。

 だが、ロシアに対する禁輸措置は、世界で11番目に大きな経済国、エネルギー、穀物、その他コモディティーの生産で世界最大級の輸出量を誇る国を狙うことで、制裁を新たなレベルに引き上げている。

 では、制裁の成果はどうか。

 3~5年のスパンで考えるなら、西側市場からの切断はロシアに大打撃をもたらすだろう。2025年までには民間航空機の2割が交換部品不足のため飛行できなくなる可能性がある。

 通信ネットワークの更新にはすでに遅延が生じており、消費者は西側ブランドの商品が手に入らなくなる。

 また、国家や実業界の有力者が自動車工場からマクドナルドの店舗に至る様々な西側企業の資産を手に入れることから、縁故資本主義がさらに拡大する。

 トップレベルの有能な市民の流出も見受けられる。独裁の現実や、自国が中国のガソリンスタンドになる見通しに嫌気をさし、国を出ているのだ。