相手が中国だと効果なし
従って、ロシアよりも大きな独裁国家である中国と対峙する場合、制裁が安価なうえに西側しか使えない手法になるという幻想を捨てなければならない。
台湾侵攻を抑止したり罰したりするために西側諸国が中国の外貨準備3兆ドルを差し押さえたり、中国の銀行をネットワークから排除したりすることは、やろうと思えばできる。
だが、ロシアの場合と同様、それによって中国経済が破綻することはない。
北京の中央政府が報復を始める恐れもある。例えば電子部品や電池、医薬品などを西側に供給するのを停止し、米ウォルマートの棚を空っぽにして混乱を引き起すかもしれない。
最大の貿易相手国として米国よりも中国に依存する国が多いことを考えると、世界規模での輸出入禁止措置の導入はロシアの時よりもさらに難しくなる。
ウクライナとロシアから得られる教訓とは、攻撃的な独裁国家との対峙には複数の前線での行動が必要になる、というものだ。
軍事力などのハードパワーは必要不可欠だ。また民主主義国は、敵対勢力の支配下にある要衝への依存度を引き下げなければならない。
制裁は重要な役目を担うが、西側はそれを多用すべきではない。
西側から将来制裁を科されることを各国が恐れるようになればなるほど、他国に今日制裁を加えることに消極的になるからだ。
封鎖を超えて
良い知らせがあるとすれば、それは侵攻が始まって180日が経過し、民主主義国もこの現実に適応しつつあることだ。
ウクライナには重火器がどんどん流れ込み、北大西洋条約機構(NATO)は欧州諸国とロシアとの国境の守りを固めている。
欧州はガスの新たな供給源を確保して、クリーンエネルギーへのシフトを加速している。
米国は中国のハイテク製品への依存度を低下させる一方、台湾に防衛力の強化を促している。
落とし穴があるとすれば、それはすべての独裁国家、特に習近平国家主席の率いる中国もロシアとの制裁戦争を研究しており、同じ教訓を得るのに忙しいことだ。
ウクライナは軍事、技術、金融という異なる要素が絡み合う21世紀型紛争の新時代の幕開けとなっている。
だが、それは自分たちの方が優位だと西側が決めてかかることのできる時代ではない。ドルと半導体だけで攻撃に対抗できる国はないのだ。