たとえば中東においては、アフガニスタンを見れば分かるように、20年間も介入しながら民主主義を定着させることができず、結局はタリバンの恐怖政治に逆戻りさせてしまった。アメリカがサダム・フセイン政権を武力で打倒したイラクでも、民主主義が定着したとは言いがたい状況である。

 そしてこの中東の事例を見れば分かるが、アメリカ自身、いつも民主主義という「錦の御旗」を振りかざしているわけではないのだ。シーア派とスンニ派の宗派対立などは民主主義とは無縁のものだし、アメリカも石油と地域のパワーバランスのほうを優先させているのである。

民主主義や人権より「石油」を優先したバイデン

 バイデン大統領は、7月13〜16日にイスラエルとサウジアラビアを訪問したが、サウジアラビアへの訪問は、原油増産を依頼することが最大の目的であった。アメリカでもガソリン価格が高騰し、政権の支持率に響いているので、その対策なのである。

 バイデンが会談したサウジアラビアのムハンマド皇太子は、ジャマル・カショギ記者の殺害を指示したとされる人物で、バイデンも批判していた。その相手に石油増産を打診しにいったわけだが、結局、確約を獲得できなかったこともあって、ムハンマドとの会談はアメリカでは否定的な評価しか得られていない。

 バイデン自身が、民主主義や人権よりも石油を選んだのである。