8月2日、台湾を訪問し蔡英文総統と会談した米下院議長のペロシ氏 (提供:Taiwan Presidential Office/AP/アフロ)

(舛添 要一:国際政治学者)

 8月2日深夜、アメリカ下院のペロシ議長一行が台湾に到着、翌3日は蔡英文総統と会談し、「台湾と世界の民主主義を守っていくアメリカの決意は揺るがない」と述べた。これに対して、中国は猛反発し、台湾周辺で軍事演習を行ったり、台湾産の食品などの輸入を禁止したりするなど対抗策を講じ、一気に緊張が高まっている。

「ペロシ訪台」は習近平への援護射撃

 冷静に考えれば、この訪台は何のためで、どんな成果をもたらしたのか、よくわからない。米中関係を悪化させて、世界に新たな紛争の種を蒔いただけならば、評価には値しないし、自分の選挙のための人気取りならば酷評に値する。政治家の行動は、結果責任である。

 ペロシが、民主主義の台湾が武力侵攻の標的とならないようにすべきである、と主張するのは正論である。また、台湾と中国を、それぞれ民主主義と専制主義の代表と位置づけ、「民主主義と専制主義の戦い」という旗を高く掲げるのも自由である。しかし、今回の訪台がその戦いにとって好ましい結果につながるかどうかは疑問である。おそらくアメリカにとっても、台湾にとっても、そして日本にとっても意味のない訪台であった。

 むしろ喜んでいるのは中国の習近平主席であろう。アメリカの脅威を宣伝する材料を獲得し、アメリカとの覇権競争に邁進している自分の正しさを中国国民に再認識させることができるからである。秋の党大会で、3期目も続投することを確実にするための援護射撃をもらったようなものである。

 中国は軍拡に精を出してきたとはいえ、まだアメリカを凌ぐ軍事力を保有するまでには至っていない。平穏な環境で党大会を迎えたい習近平が、アメリカと軍事衝突を起こすような冒険をするはずはない。