廃仏毀釈からの巻き返しで国家に近づく

――タイトルは「仏教の大東亜戦争」ですが、その淵源は明治維新にあると指摘していますね。

鵜飼氏:明治維新のとき、日本の宗教界において最大のエポックといえる出来事がありました。神仏分離令が発令されたのです。神仏分離令は、それまで混淆していた神と仏を分離せよ、という内容でした。つまり国家神道を目指したのです。

 その結果、神仏分離令を拡大解釈した為政者や大衆によって、寺院の破壊が行われます。これがいわゆる「廃仏毀釈」です。私はその全容を2018年にまとめた『仏教抹殺 明治維新はなぜ仏教を破壊したのか』(文春新書)で描きました。

 本書はその続編と捉えていただいてよいと思います。廃仏毀釈で壊滅的なダメージを負った仏教界が、巻き返しを図るべく、国家にすり寄ります。そして、金銭面、実装面で様々な協力をしていきます。

鵜飼秀徳(うかい・ひでのり)氏 作家・正覚寺住職・大正大学招聘教授。 1974年、京都市嵯峨の正覚寺に生まれる。新聞記者・雑誌編集者を経て2018年1月に独立。現在、正覚寺住職を務める傍ら、「宗教と社会」をテーマに取材、執筆を続ける。著書に『寺院消滅』『無葬社会』(いずれも日経BP)『仏教抹殺』(文春新書)『仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝』(朝日新聞出版)など多数。東京農業大学非常勤講師、佛教大学非常勤講師、一般社団法人良いお寺研究会代表理事、公益財団法人全日本仏教会広報委員(学識経験者)なども務める。(写真:櫻井寛)

――明治新政府が欧米に送った岩倉使節団に、仏教使節団が合流したことが書かれています。岩倉使節団は現在の学校教育では西欧の進んだ文物を学んだ出来事とされていますが、宗教も重視されていたということでしょうか。結果として、その後、政府に寄り添う関係性ができたきっかけになりました。

鵜飼氏:岩倉使節団については、中学校などで扱う教科書には「不平等条約の改正と欧米視察を目的に」くらいしか書かれていません。しかし、使節団の重要な目的に「欧米のような強い国を作るには、どうすればよいか」ということがありました。維新政府は欧米のキリスト教支配を参考にします。覇権国家をつくり上げている源泉には、一神教の強い宗教支配があると考えたのです。