日中戦争をきっかけに、仏教界は戦争への関与をエスカレートさせた(写真:AP/アフロ)

なぜ仏教は国民を“殺生”に駆り立てたか――。帯にこんな刺激的な惹句が躍る新書が発売になった。執筆したのは『寺院消滅』『仏教抹殺』などの著書があるジャーナリストで京都・正覚寺の住職を務める鵜飼秀徳氏だ。新著『仏教の大東亜戦争』では、明治維新以降、国家に接近した仏教の各宗派が、日清戦争、日露戦争、そして大東亜戦争に積極的に協力する姿を赤裸々に描いている。不殺生を戒としてきたはずの仏教者がなぜそんな行動を取ったのか。タブーだった戦争協力の実態に切り込んだ鵜飼氏に聞くインタビューを2回に分けてお伝えする。(聞き手は編集部・高林 宏)

――仏教の各宗派が競うように戦争を支援し、僧侶が武器を手に戦場に立つ。そんな戦時中の実態を知り衝撃を受けました。一方で、鵜飼さんはご自身が住職を務めておられます。このような重いテーマの書籍、いつから書こうと思っていて、どれくらいの時間をかけて取材をしてきたのですか。

鵜飼秀徳氏(以下、鵜飼氏):「戦争と仏教」への関心と問題意識は、20代の頃から持っていました。私は平成6(1994)年から浄土宗の修行に入り、平成8(1996)年に正式に浄土宗教師(僧侶になる有資格者)となりますが、まさにその時期と重なります。

 きっかけは、私が所属する浄土宗が、「零戦を寄贈していた」という事実を知ったときです。「不殺生を最も重要視する仏教が、人殺しを目的とする兵器を贈る矛盾って、どういうことか?」と。しかし、修行中にそんなことは教えてくれませんし、一般向けの書物もほとんどない。暗部を含めて、宗教の本当の姿を知りたいと思い続け、本格的に取材を開始したのが3年前のことでした。

鵜飼氏の新著『仏教の大東亜戦争』では戦争協力というタブーに切り込んだ

――戦後70年以上も経っていて、資料集めも大変だったと思います。

鵜飼氏:実は、仏教教団に関する戦時資料は、日中戦争以前のものは、それなりに残っています。むしろ、多くの資料を体系的に、わかりやすく整理していく作業の方が大変でした。

 太平洋戦争が激化した後は、社会の混乱と物資統制の影響で紙の資料が激減します。それを補うために、各地の寺院を回って住職と対話し、金属不足のため大仏や梵鐘を供出した資料なども現場で集めて回りました。