(英エコノミスト誌 2022年6月4日号)
中国の諜報機関はハッキングや反体制派への嫌がらせは得意だ。だが、その他の分野では学ぶべきことがまだ多い。
西側諸国の当局者は近年、中国のスパイに気をつけろと警鐘を鳴らし続けてきた。端的に言えば、彼らは大胆になり、腕前も上げている。
中国人スパイには多くの嫌疑がかけられており、例えば米マイクロソフトの電子メール・サービス「エクスチェンジサーバー」へのハッキング、西側の防衛・民生技術の機密窃取、外国に住む反体制派への嫌がらせ、アフリカ連合(AU)本部の盗聴で非難されている。
(中国側はこれらをすべて否定している)
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻が近いという圧倒的な証拠に接した際には、ドジを踏んでしまったようだ。
ロシアの侵攻を予期できなかった失態
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席が2月4日の首脳会談でどんな話をしたとしても、その3週間後にロシアが侵攻を開始した時、中国に準備ができていたようには見えなかった。
その明確な証拠の一つに、ウクライナ在住の中国市民の避難計画を立てなかったことが挙げられる。
侵攻が始まった当初、在ウクライナ中国大使館は中国市民に対し、自宅に留まるか、または中国の国旗を「自家用車の目立つところに」貼り付けるようアドバイスした。
もし大使館のスタッフが、国家主義的な映画『ウルフ・オブ・ウォー(戦狼2)』で主人公がアフリカでの紛争の前線を中国の国旗を掲げることで通過するシーンを連想していたとしたら、その期待は裏切られた。
中国がロシアのプロパガンダを受け売りしていたせいで、ウクライナにおける同国の評判は芳しいものではなかった。
大使館はこのアドバイスを2日後に撤回し、「自分の身元を明かさないように、身元が分かるシンボルも飾らないように」と呼びかけた。
ウクライナの抵抗や西側の支援に戸惑い
片や国連では、中国の外交官たちがやきもきしていた。本国政府が明確な立場をなかなか打ち出せずにいたからだ。
中国はまた、ロシアに対するウクライナの抵抗や西側によるウクライナ支援にも驚いたようだった。
侵攻開始から数日間、中国政府当局者は外国政府の同格の幹部たちと次々に連絡を取り、あれこれ聞き出そうとした。
北京に駐在する外国のある外交官は、戦争が始まる前に複数の中国当局者と話をした時のことを教えてくれた。