ウクライナ軍は4月頃から、同国で2番目に大きい都市ハルキウ正面で、ロシア軍に対して反撃を行い、特に5月から攻勢をかけ、5月17日にはハルキウの大部分を奪還した。
この成果は、ロシア軍が特に攻勢を仕掛けるハルキウ州の都市イジュームの後方連絡線を遮断しようとする狙いで、米欧から供与された兵器を実際に運用できるようになったことにある。
ロシア軍からしてみれば、損失の多さからくる戦意の喪失などが重なった結果なのであろう。
ここには、ウクライナ軍の作戦戦術の巧妙さが見える。
その巧妙さは、現在、ウクライナ軍とロシア軍が戦っている長い正面幅の中で、ロシア軍攻撃の弱点であるハルキウに戦力を集中していることにある。
ウクライナ軍の作戦戦術の巧妙さについて、ロシア軍の地上戦全般の作戦戦術とこの弱点を突くウクライナ軍の作戦戦術について説明する。
1.作戦幅の長さから見える露軍の弱点
ロシア軍は現在、北からハルキウ州、ルハンスク州、ドネツク州、メリトポリ州、へルソン州に侵攻し戦っている。この作戦幅は、あまりにも広大であり1000キロもある。
再編成後のウクライナ軍から受けた損耗などを考えて、現在、まともに戦える兵員数は、多くてもせいぜい15万人くらいだろう。
これだけの兵力で、正面約1000キロに展開して戦うことは、軍部隊同士の相互支援ができる能力をはるかに超えている。
攻撃や防御において、各種弱点が生じていても不思議ではない。
これだけ広域に展開して攻撃するロシア軍にどのような弱点があるのかを分析する。
ロシア軍が侵攻して占領している地域の形を概観すると、鳥が羽を広げた形に似ている。古典戦術では、鶴翼の陣(かくよくのじん)と呼ばれるものである。
鶴翼の陣とは、軍部隊を敵に対峙して左右に長く広げた隊形に配置する陣形で、鶴が翼を広げたような形なっている。
兵力差が大きく優勢であるとき、突進してくる敵軍に対して集中攻撃を加え、敵を撃破しようとするものである。
図1 ロシア軍の展開と鶴翼の形