ピーター・ドラッカー(写真:Colin Lizius/Camera Press/アフロ)

(朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO)

 ロシア軍のウクライナ侵攻が始まってから間もなく3カ月が過ぎようとしています。ウクライナから見れば、ゼレンスキー大統領は、難局の中で、非常によくやっていると評価してよいでしょう。

 当初はロシアと国境を接する東部地域ばかりか、首都キーウでさえすぐに陥落するとういう見方が大勢を占める中、西側諸国からの兵器供与があったにしても、粘り強く反撃を重ね、キーウ近郊やハルキウ近郊からロシア軍を撤退させるなど、当初予想されていた以上の成果を上げています。

 ウクライナの「強さ」のカギとなっているのが、ゼレンスキー大統領の強いリーダーシップとメディア戦略や外交戦略も含めた卓抜したマネジメント能力です。

ゼレンスキーとプーチン、そのリーダーシップの違い

 ロシアによる侵攻の開始直後には、「キーウ陥落の可能性が高いので、ポーランドなどに脱出し、国外から指揮したほうがいい」とゼレンスキー大統領に勧める声もあったようですが、彼はあくまでもキーウにとどまるとして、リスクを冒しながら陣頭指揮を執り、国内を戦時体制に変革していきました。そういう意味で、強いリーダーシップを発揮したと言えます。

 ともすれば「リーダーシップを発揮する」ということを「人々をうまく導くこと」ととらえる人もいますが、リーダーシップの本質はそうではありません。「それは無理じゃないか」「それは止めた方がいいんじゃないか」という難しい事柄について、あえて挑戦する決断をしてまず陣頭に立ち、あくまで結果として組織を変革していくことなのです。リーダーの訳語で言えば、本当は、「指導者」ではなく、「始動者」を充てるべきです。

 そういう意味では、「キーウにとどまり、そしてロシア軍を撃退する」という、侵攻当時で考えればかなり難しい決断をし、結果として国民の意識を一つにまとめあげ、そして、国内外の情報戦でもロシアを圧倒し、欧米の支援を取り付けつつ少なくとも首都近郊や第二の都市ハルキウ近郊を守った(最近は反転攻勢で更にロシアを押し返す勢い)ゼレンスキー大統領は、これまでのところリーダーシップを発揮していると評価してよいでしょう。