ウクライナのミサイル攻撃で沈没したロシアの旗艦「モスクワ」(写真:ロイター/アフロ)

「北海道にすべての権利を有している」発言

 ロシアとウクライナの戦争が長期化している。ロシア軍が2月24日に侵攻し始めた当初は、数日でキーウが陥落すると言われたが予想外の長期戦となった。これは欧米の支援を受けたウクライナ軍の抵抗が強かったこと、それに対してロシア軍が世界第2位の軍事力を擁しているにもかかわらず、装備の近代化が進んでいないことなどが原因で、そのツケを払わされるような格好で、ロシア軍は苦戦を強いられている。

 その一方で、ロシアの一部の政治家が日本に対して強硬な発言を行っている。左派政党「公正ロシア」のミロノフ党首が4月1日「一部の専門家によると、ロシアは北海道にすべての権利を有している」と日本への脅しとも受け止められる見解を表明した。

 また、ロシアの極東開発を統括するトルトネフ副首相は4月25日、北方領土について、独自の開発や投資をさらに進め、「ロシアのものにする」との意向を示した。北方領土を対象としたクルーズ船の就航や投資計画の策定、観光開発を通じて「クリール諸島(北方領土と千島列島の露側呼称)をロシアのものにする」と強調した。

 北方領土は日本の政治家がいくら「日本固有の領土」と叫んだところで、ロシアから返還される見通しは薄い。では、ミロノフ党首の発言のように、ロシアは北海道を自分のものとする能力を有しているのだろうか。

ロシアの左派政党「公正ロシア」のセルゲイ・ミロノフ党首(写真:Russian Look/アフロ)

地上兵力の半分近くをウクライナに動員したロシア

 日本とウクライナの最大の違いは、日本は「敵国」と海を隔てていることにある。日本はロシア、北朝鮮、中国という敵国に囲まれているが、島国であるという点が幸いしている。

 ロシアと陸続きのウクライナを侵攻するために動員された兵力は15万人、これはロシアの地上兵力の半分近くを動員したことになる。北海道を侵攻する場合も大規模な地上兵力を投入する必要がある。

 防衛白書によると、ロシアの兵力は極東全体(東部軍管区)においては10個旅団及び2個師団の約8万人となっているほか、水陸両用作戦能力を備えた海軍歩兵旅団を擁しているが、日本の陸上自衛隊(約13万8000人)より少ない。

 一方、海軍は主要水上艦艇約20隻と潜水艦約20隻(うち原子力潜水艦約13隻)、約22万トンを含む艦艇約260隻(戦闘艦ではない補助艦艇を含む)、合計約61万トンとなっている。日本の海上自衛隊の主要水上艦艇は48隻と潜水艦22隻、合計約50万トンとなっている。また、ロシア軍の作戦機が約320機なのに対して航空自衛隊の作戦機は372機となっている。

 それに日本には自衛隊のほかにも米海軍の空母が加わる。横須賀を母港とする空母「ロナルド・レーガン」には約90機が搭載可能だ。

 このように数のうえでは海上自衛隊を除き、陸上自衛隊と航空自衛隊はロシア軍を上回っている。このため、ロシア軍にとっては航空優勢を確保できないまま、海をどのように渡るのかということが最大の問題となる。