強制帰国の実行手段は主として以下の3つある。(1)中国国内にいる親族への脅迫、職場追放、拘束などにより対象者に圧力をかけ、自主的に帰国させる、(2)海外に送り込んだ警察当局者が対象者を誘導して、中国国境内、国際公海、国際空域、または引き渡し契約のある第三国へ連れ出し、逮捕・拘禁、強制送還する、(3)誘拐して拘束し、秘密裏に送還するという荒っぽいもの。また、これら3つを組み合わせる場合もある。

 2018年にスカイネット作戦による帰国者の中で、非自発的な帰国を強いられた者は64%にのぼり、正規の犯罪人引渡手続きを踏んだ者は1%であったという。とはいえ、いつも中国当局の活動が成功するわけではない。前述の3つの方法の具体的事例について見てみよう。

中国国内にいる親族を拘束

(1)中国最高法院の前裁判官・謝衛東は、カナダへ移住後、中国の刑事司法体制を公然と批判していた。これに対して中国当局は、謝には汚職の容疑があると批判し、自発的に帰国させようとした。謝が拒否すると、当局は中国在住の彼の妹や息子を拘束、さらに前妻や長年のビジネスパートナー、妹の代理人である弁護士に圧力をかけて、謝衛東が自主的に帰国すれば情状酌量されるとして謝を説得させようとした。

 だが、中国で裁判官を長年務めた謝には、帰国すればどのような状況が待っているかがはっきりとわかっていた。そのため彼は断固として帰国を拒否した。

(2)2014年末、オーストラリア国内で、中国の特務機関が中国系オーストラリア人・董鋒を脅迫して帰国させようとした。メルボルン在住で旅行会社勤務の董鋒は法輪功の会員だった。中国当局の特務機関が董鋒に帰国を促し、法輪功を脱退して悔い改めるよう説得した。中国では親族が脅迫されていたため、董鋒は当初説得を受け入れたが、最終的に帰国を拒否し、オーストラリア警察に助けを求めた。その結果、中国の特務機関がオーストラリアで暗躍していたことが発覚して、オーストラリアと中国の外交問題に発展した。