共産党内部で学習されるドキュメンタリー

 中国がロシアを受け入れるのはなぜかというもう一つの説明は、じかに見聞きするのが難しい。中国共産党内部での思想教育が関わっているからだ。

 この教育活動は、ソ連解体の「悲劇」から教訓を引き出している。ソ連崩壊を共産主義への信頼喪失の危機として描く習氏の見解にならっている。

 習氏は中国のトップを務めたこの10年間に何度か、ソビエト共産党の指導者や幹部たちは私利私欲に走った、軍部を政治的に支配する力を失ったなどと批判している。

 特に、ソ連崩壊は「歴史的虚無主義」のせいだとしている。

 この用語は、イデオロギー上の敵を歴史の暗い逸話から切り離せないようにするために仲間内で使う言葉だ。

 この主張を描いたのが、共産党内で利用するために新たに制作された長さ101分間のドキュメンタリー映画「歴史的虚無主義とソビエト崩壊:ソビエト共産党およびソ連邦の崩壊後30年の省察」だ。

 広く宣伝されているわけではないが、昨年後半から学習されている。

 上映したという短い報告が中国全土から、それも中央政府や地方政府の機関だけでなく大学や裁判所、地方の党委員会から上がっており、地方の営林署からも少なくとも1件寄せられている。

 これはトップから命じられた活動であることの証左だ。

 普通の映画館やテレビでは公開されていないが、インターネット上では見つかるかもしれない。

スターリンを礼賛し、フルシチョフは悪役

 この映画は、スターリンをもてはやしている。

 スターリンが農業を集団化した後に生じた飢饉(ききん)は、裕福な農民が穀物を退蔵したせいだったとしている。

 政治粛清については、多少の行き過ぎがあったと認めつつ、数百万人もの殺害はなかったとしている。

 ドキュメンタリーは、アドルフ・ヒトラーとスターリンが一緒になって第2次世界大戦を始めたという批判は虚偽宣伝だと述べている(2人の暴君に東西から侵攻されたポーランドは異を唱えるかもしれない)。