イギリスが「世界の執事」でなくなる日

 対オリガルヒを含めた制裁について、英政府筋は筆者にこう語った。

「一国に対して導入した最大の制裁だ。クレムリンに最大限の打撃を与え、ロシアが戦争のための兵器を買えないようにすることが目的だ。制裁でルーブル相場やロシアの株式市場は暴落した。オリガルヒなど個人や企業を対象にした制裁は続けられる。最終的にはロシアが一兵残らずウクライナから撤退させるように追い込むことだ」

 その言葉はどこかむなしく響く。ロシアのオリガルヒたちとは、これまで「持ちつ持たれつ」でやってきたはずだ。イギリスの制裁が、彼らを完全に干上がらせるものとは思えない。

 筆者は出版に合わせてロンドンの外国人特派員協会(FPA)で記者会見したブロウ氏に「実際、イギリスにはオリガルヒのためだけでなくこの国のお金持ちのための抜け道がたくさんある。しかしそれを塞ぐとお金持ちが怒るのではないか」という素朴な質問をぶつけてみた。こうしたお金持ちは主要政党の大口献金者なのだ。

「ええ、全くその通りだ」とブロウ氏は頷いた。

「租税回避やクレプトクラシー、腐敗、マネーロンダリングなどの問題を一度に解決することできない。ウクライナで腐敗に取り組む女性活動家と何年も一緒に仕事をしてきた。彼女は『腐敗を100%解決しようとは考えない。4%できたら5%に、5%できたら6%にする方法を考えよう』と呼びかけている」

 続けて、こう希望を述べた。

「小さな問題を一つずつ解決していくことが重要だ。最終的に私たちが閉じた抜け道は、ロンドンの一等地メイフェアを中心に莫大な土地を所有するウェストミンスター公爵を動揺させるかもしれない。しかしその段階が来るのはまだまだ先だ。取り組む課題はたくさん残っている。イギリスが“世界の執事”でなくなる日が来ることを望んでいる」