ウクライナのオリガルヒは「プーチンの代理人」

 ロシアとウクライナの関係者が協力してロシア国境でガスプロムから天然ガスを受け取り、それを高額でリッチな欧州に売りつける。サヤを抜いて分配する不可解な仲介会社が設立された。天然ガスマネーをウクライナ政界にばらまいて腐敗させれば、クレムリンの思うままに操れる。フィルターシュ氏は仲介会社を使ってウクライナの政治家を牛耳るプーチン氏の“代理人”だった。

 2004年の「オレンジ革命」でプーチン氏の操り人形ビクトル・ヤヌコビッチ氏はウクライナ大統領選で親米欧派ビクトル・ユーシェンコ氏に敗れた。しかしガスプロムは「仲介会社をこれまで通り噛ませないと天然ガスの供給を止める」と恫喝し、ユーシェンコ氏を腐敗の泥沼に跪かせた。拒絶すれば国民が摂氏マイナス30度の寒さに凍えることになる。民主派のシンボル、ユーシェンコ氏には泥をかぶる道しか残されていなかった。

 フィルターシュ氏はウクライナとその国民から盗み取ったおカネで英名門ケンブリッジ大学に600万ポンド(約9億6000万円)以上を寄付し、名声と信用を手に入れた。クリミア併合後は、英外務省がキエフで起きていることを理解するため、フィルターシュ氏を招いている。彼はこうアドバイスしたという。

「ロシアを制裁するのは悪い考えだ。悪いのはロシアを挑発したアメリカだ」

 クリミア併合でフィルターシュ氏が使ったロジックは今回のウクライナ侵攻でも世界中に張り巡らされたプーチン氏の「ユースフル・イディオット」(役に立つ愚か者)によって繰り返されている。

 フィルターシュ氏を制裁対象に加え、ブロンプトン・ロード駅を差し押さえる考えはあるかという筆者の取材に英政府筋は「一般論として事前に個別事案に答えると差し押さえ逃れの手段を取られる恐れがあるので答えられない」とだけ話した。