ジョンソン首相は「腐敗したロシアマネーを根絶やしにするために英政府ほど取り組んでいる国はない。プーチン氏のウクライナに対する悪質な攻撃を支持した者に安住の地は存在しない。市民の殺害、病院の破壊、主権国家を不法占拠する者を徹底的に追及する」と啖呵を切った。
実はジョンソン氏にはそうやって大見得を切らざるを得ない理由がある。
イギリスは「これまで進んでロシアやウクライナのオリガルヒに手を貸し、戦争の遠因をつくってきた」との厳しい目を向けられている。今でこそ対オリガルヒ制裁の先頭で旗を振っているように装うジョンソン氏も、「ロシアの軍産複合体」に目をつぶってきた当事者なのだ。
ブロウ氏は新著『世界の執事:いかにイギリスは大富豪、税金逃れ、盗賊政治、犯罪者の下僕になったのか(Butler to the World: How Britain Became the Servant of Tycoons, Tax Dodgers, Kleptocrats and Criminals)』の中で生々しい事例を挙げている。
ウクライナの新興財閥に85億円で売却されたロンドンの“幽霊駅”
元銀行員のアジット・チェンバース氏はロンドンで使われなくなったいくつかの地下鉄駅に目をつけ、「サンフランシスコには監獄島アルカトラズがあり、パリに地下納骨堂カタコンベがあるようにロンドンの“幽霊駅”を観光名所にしよう」とロンドン交通局に持ち込んだ。当時、ロンドン市長だったジョンソン氏も乗り気だった。
地下鉄ピカデリー線のナイツブリッジ駅とサウス・ケンジントン駅の間の一等地に位置する“幽霊駅”(1934年に閉鎖)のプラットフォームに当時の乗客をホログラムで蘇らせ、イベントスペースやバーとして活用する奇想天外なアイデアに英メディアは飛びついた。チェンバース氏は2500万ポンド(約40億円)をかき集めた。
第二次大戦中は高射旅団司令部として使われた駅の所有者はイギリス国防省で、結局、2014年2月、ウクライナの大富豪ドミトロ・フィルターシュ氏に住宅開発用として5300万ポンド(約85億円)で売却された。クレムリンに近いフィルターシュ氏は天然ガス利権で一財を築いたオリガルヒだ。フィルターシュ氏はウクライナ屈指の富豪でありながら、今は「ロシアの軍産複合体」を援助したとしてウクライナ当局の制裁対象となっている。