スエズ危機後のイギリス
マイケル・ゴーヴ英レベリングアップ・住宅・コミュニティー・地方自治相は英BBCで「英政府が制裁対象として資産を凍結したロシア人オリガルヒのイギリス内不動産をウクライナ避難民支援のために活用できる」可能性を示したが、これに対してブロウ氏は「人目を引くためだけのギミックだ」と吐き捨てた。イギリスは世界中の汚れたお金の下僕として仕えてきた。
1956年のスエズ危機はイギリス衰退の象徴になった。しかし戦後の復興と進歩から取り残されていた金融街シティは逆に蘇った。
「ウェストミンスター(英議会)が大英帝国の頭脳であり、英海軍がその筋肉であるとすれば、シティはその心臓だった。地球上のすべての大陸、すべての都市に張り巡らされた金融動脈に資金を送り込んでいた」(『世界の執事』より)
スエズ危機をきっかけにシティは生き残りをかけ、大英帝国の心臓としてありとあらゆる器官に資金という血液を流し始めた。金融街のバンカーや弁護士、会計士は億万長者たちがオフショア口座に蓄財するのを手伝った。シティの金融・法律インフラは、かつて大英帝国が育てた怪しげな権力者が自国の資源を搾取し、不正蓄財するのに再利用された。
英領バージン諸島、ケイマン諸島、イベリア半島南東端のジブラルタルを、国家や国民の財産の収奪者にとって格好の隠れ家として再生させた。狡猾な専門知識を駆使したペーパーカンパニーや金融商品を通じ、大富豪やグローバル企業が租税を回避できる抜け道をつくった。
「われわれがやらなければ、他の誰かがやる。米ウォール街では許されない方法でお金を動かしたいならロンドンでやればいいというわけだ」(ブロウ氏)
100年以上前に設けられた英スコットランドの「スコティッシュ・リミテッド・パートナーシップ(SLP)」という仕組みはタックスヘイブン(租税回避地)のペーパー会社より悪質だ。SLPは法人格を持ち、資産を保有したり契約を締結したりできる。
「富の所有者を隠すツールとして1990年代から使われ始めた」(ブロウ氏)
2017年まで誰が真のSLPの所有者か開示する義務がなかったため、ロシアや旧ソ連圏の犯罪組織のマネーロンダリング(資金洗浄)に使われてきた。ロンドンは地球上で最悪の人々にへつらい、民主主義を腐敗させ、貧富の分断を広げてきた。ロシアのオリガルヒを取り締まるより、資産隠しと不正蓄財に進んで手を貸してきたのだ。ロンドンはいつしかロシアのオフショア都市のごとく“ロンドングラード”と侮蔑的に呼ばれるようになった。
ロシア人オリガルヒが使ってきたプレイブックを、いま盛んに使っているのは中国人資産家たちだ。