1週間前はロシアと北方領土については、話題にもなっていなかった。それがロシアの侵攻が現実のものとなって、ようやく日本人の視線も北方四島に向けられるようになった。おそらくは、プーチンがそこまでの蛮行をやるとは、多くの人々が思っていなかったのだろう。そういう“お国柄”であることを忘れている。
「当面は、領土問題について申し上げることは控えなければならない」
岸田文雄首相は25日の参院予算委員会で、ロシアに対する経済制裁について、「今はまず制裁措置を実行し、国際法違反の行為が、高いコストを伴うものだと明らかにすることが重要だ」と述べた上で、「当面は、領土問題などについて申し上げることは控えなければならない」と明言している。
全国紙は「ウクライナ侵攻で北方領土交渉は振り出し」(読売新聞)などと書いている。北方領土問題を含む平和条約交渉をめぐっては、2018年に当時の安倍晋三首相とプーチンとの間で「平和条約を締結したあと歯舞群島と色丹島を引き渡す」とした1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速することで合意していた。
ウクライナへの侵攻に対する日本の制裁については25日、ロシアのガルージン駐日大使が「日本政府がロシアと日ロ関係に対して逆効果となる措置を取ったのは大変遺憾だ」「重大な対抗措置を取ることになる」と警告している。制裁を発動したことによって領土問題交渉が暗礁に乗り上げたとの見解だ。
しかし、「振り出し」もなにも、プーチンが率いるロシアに奪った領土を返還するつもりなど、端からあっただろうか。18年の日ロ首脳の合意も「交渉を加速する」というだけのものだ。歴史や“お国柄”、それにウクライナの惨状を見れば、新たに奪うことはあっても、奪ったものを返還する気など毛頭ないと考えたほうが自然だ。北方四島はロシア極東の本土防衛にとっても手放したくない要衝のはずだ。
北京オリンピックが閉幕した翌日の21日は、1972年に当時の米国のニクソン大統領が電撃訪中を実現してから、ちょうど50年の節目にあたる日だった。だが、そのことはあまり報じられていない。あるとしても、そこから中国がいつか自由経済、民主主義陣営へ移行するとした米国の「関与政策」が明らかに失敗であったことを伝えている。