新潮社の会員制国際情報サイト「新潮社フォーサイト」から選りすぐりの記事をお届けします。
2011年3月、バイデン副大統領(当時)がロシアを訪問し、プーチン首相(当時)と握手した(写真:ロイター/アフロ)

(文:名越健郎)

プーチン氏とバイデン氏の間には、二人が首相・副大統領だった時代に根差す確執がある。“好機”を捉えた欧州安保体制への挑戦と「大ロシア主義」、プーチン氏の意識を占めるこの二つのファクターに左右されるウクライナ情勢の行き着く先は――。

 ロシア軍の兵力増強で緊張が高まるウクライナ情勢で、ジョー・バイデン米大統領は、
「2月中に侵攻する可能性が高い」
「地面が凍結して侵攻しやすくなるタイミングを狙っている」
などと危機感を強めている。

 ウクライナ側は、
「限定的な攻撃はあっても、全面侵攻の可能性は低い」(ウクライナ軍高官)
との見方で、両国間で認識の差がある。ドイツのブルーノ・カール情報局長官は1月28日、『ロイター通信』に対し、
「ロシアは攻撃する準備ができているが、攻撃するかどうかはまだ決めていない」
と述べた。フランスなども慎重な分析で、バイデン政権の慌てぶりが突出している。

 ロシアにとって、米政府が動揺するのは望み通りの展開だろう。ウラジーミル・プーチン露大統領にとっては、軍事威圧はウクライナだけでなく、バイデン氏個人を揺さぶる「報復」の目的がありそうだ。

アメリカに「能力と決意」を示す狙いも

 ウクライナ情勢はこの4、5年膠着状態にあり、ロシアがドナルド・トランプ政権時代に国境に兵力を増派することはなかった。ロシアが昨年3月、10万人規模の兵力を増派したのは、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー政権が2月に「クリミア奪還国際会議」開催を発表したこともあるが、バイデン政権誕生が最大の誘因だろう。バイデン氏がプーチン大統領を「殺し屋」呼ばわりした直後のタイミングだった。

 その後、米露首脳会談開催が決まると、ロシアは約半数の兵力を撤収させ、6月のジュネーブでの首脳会談を挟んで同レベルで推移していた。しかし、10月末にウクライナ軍がトルコ製ドローンを使った攻撃を行った後、ロシアは11月から再び国境周辺で春以上の大規模展開に着手した。

◎新潮社フォーサイトの関連記事
ロシアの「ウクライナ3都市」同時侵攻のシナリオ
「ウクライナ侵攻作戦」の切り札となるロシア最精鋭「戦車軍」
祖国防衛に立ち上がるウクライナ・レジスタンス