可能性高いロシア軍の侵攻、軍事的反撃の選択肢はほぼない米欧
21日の米露外相会談の「決裂」を受けて、ロシア軍がウクライナ国境を越える可能性がある。これに対して、アメリカやNATOは軍事的手段をとりえない。それは、第三次世界大戦の引き金となるからである。
そこで、経済制裁という手段で対応することになる。バイデン大統領は、ロシアの銀行によるドル取引を停止することも明言している。しかし、西欧諸国はパイプラインによってロシアから天然ガスの供給を受けており、ロシアはそれを対抗手段として使うことも可能である。
経済制裁という牽制球が軍事衝突を阻止できるかどうか、楽観は許されない。
「強いロシア」の復活を模索するプーチンは、たとえば、中東において、トランプ政権下のアメリカが米軍の撤収を始めた間隙を縫って、シリア内戦に介入するなど影響力を高めている。
2014年のクリミア併合は、ロシア人のナショナリズムにアピールする「快挙」であり、ウクライナ東部を併合できれば、失われた帝国の復活につながる。中央アジアの大国、カザフスタンに、トカエフ大統領の要請に応える形で暴動鎮圧のために精鋭部隊を派遣したのも、第2のウクライナを生まないための予防措置である。
〈参考〉【舛添直言】カザフ大統領はなぜ自国軍でなくロシア軍を頼ったか(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68450)
ロシアは、帝国の維持のためには、弾圧、虐殺、暗殺などあらゆる手段を行使する。ソビエト連邦時代、スターリンが、1932〜33年にウクライナで人為的な大飢饉(ホロドモール)を作り出し、大量の餓死者を出したことは有名な歴史的事実である。350万〜800万人が餓死したというこの悲劇は、2019(日本では2020)年に公開されたポーランド・イギリス・ウクライナ合作映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』に描かれている。
ウクライナは、言語的にも文化的にもロシアに近いが、90年前にロシアが、外貨獲得のために穀倉であるウクライナから小麦を奪い取り、人々を餓死に追いやった歴史は消し去られるものではない。独立国となった今、ウクライナがNATOに安全保障を頼ろうとする感情はよく理解できる。
ウクライナでは、脱ロシア化が推進され、ロシア語も公用語から追放され、若い世代はロシア語を話さなくなっている。これは、最終的にはウクライナを帝国の一部として復帰させたい願望を抱いているプーチンにとっては耐えがたいことである。世界中がコロナ感染で忙殺されている今こそ、ウクライナへの軍事侵攻を実行する好機と、ロシアが考えても不思議ではない。真冬で草木が枯れ、凍てついている大地の状況は、戦車で侵攻するには最適の条件でもある。ロシア侵攻の蓋然性が議論されるのは当然である。