それこそ、プーチンにとっては「超えてはならない一線」であり、国境地帯に部隊を展開させて牽制しているのである。危機を避けるべく、これまでもアメリカやNATOとロシアとの間で協議が行われてきたが、ロシアの要求は、「これ以上NATO加盟国を増やさないこと」に尽きる。それさえ保証してくれれば、国境地帯の軍を撤退させる意向を示している。また、ロシアは、自国の近隣諸国へアメリカやNATOの兵器、とくに核兵器やミサイルを配備しないことを求めている。

 しかし、NATOに加盟するかどうかは各主権国家が決めることであり、他国が指図できるものではないというのがアメリカの主張である。

水面下で進められているロシアによる下工作

 両者の主張は真っ向から対立しており、妥協の余地はない。19日に、アメリカのブリンケン国務長官はキエフを訪れゼレンスキー大統領やクレバ外相と会談し、ロシア軍の行動に対しては、一致した行動をとることを確認している。また、18日には、イギリスが対戦車用の兵器をウクライナに供与している。

 こうして、緊張は高まりつつある。ブリンケン国務長官は次いで、ベルリンでドイツ外相など同盟国の担当者と協議を重ね、その後、21日には、ジュネーブでロシアのラブロフ外相と会談する予定である。しかし、両者の間で妥協点が見出される見通しはない。

 2014年3月のクリミア半島併合のときには、「ロシア系住民の決議に基づいて」という建前の下で、ロシア軍が介入した。そのために、工作員の事前潜入など、綿密な準備の上に軍事侵攻が実行に移されたのである。今回もロシアは、ウクライナ東部に住むロシア系住民の保護を目的に、同様な手段を駆使して侵攻する予定である。すでに、多数の工作員が侵入しているとされている。

ロシア国境に近いウクライナ東部ドネツク地方の港湾都市マウリポリで塹壕の中に身をひそめるウクライナ兵士。同地域には親露派戦闘員が多く、衝突が繰り返されている。1月20日撮影(写真:AP/アフロ)

 さらに、2月10〜20日には、ロシアはベラルーシと合同軍事訓練を行う予定であることを公表した。ウクライナの北隣がベラルーシであり、国境線は1100kmにも及ぶ。この合同演習もまた、ウクライナへの圧力となる。