日本が中国に配慮しても、中国は日本に配慮せず

 こうした最中、アメリカのバイデン大統領は、同五輪について、中国の人権状況を理由に政府関係者を派遣しない「外交的ボイコット」を検討していると明言。一方、岸田首相は「それぞれの国においてそれぞれの立場があり、考えがあると思う。日本は日本の立場で物事を考えていきたいと思っている」と、立場を明確することは避けたものの、先の領海侵入などの件もあり、来年夏の参院選なども念頭に、「日本がいくら中国に配慮しても中国側からの対日配慮などは得られない」という有権者の批判に抗しきれなくなる可能性も浮上している。

 この状況に不安を感じてか、日本における言論戦の担い手と目されている薛剣・駐大阪中国総領事はTwitter上で「隣国同士として五輪の相互支援を政府の最高レベルで約束した。東京五輪の時に、中国は最大限の誠意をもって支援し、約束を果たした。今、日本の番になっているので、当然の事ながら、北京五輪の支援を約束通りにしてほしい。同じ東洋人だから、これぐらいは守らないと困る」と懇願とも、牽制とも受け取れる表現で、北京冬季五輪開催への日本側の協力を要請している。

薛剣・駐大阪中国総領事のツイート

「愛される中国」と相反する過激で先鋭化する言論、日本が示した対中配慮の直後に展開された軍部の対日強硬姿勢、北京冬季五輪を窮地に陥れるタイミングでの彭氏の告白などは、習近平指導部が内部に不協和音を抱えている、との憶測を呼ぶのに充分な状況証拠と言える。北京冬季五輪の成功という成果をもとに、来年秋の党大会で異例の3期目突入や、毛沢東以来の「党主席」就任をも目論んでいるとされる習氏だが、これらのチグハグな現象を見ると、同氏の足元は必ずしも盤石ではないことを示唆しているかのようだ。

 折しもオミクロン株が感染拡大の兆しを見せる中、こうした現象を日本政府はどのように分析し、どのように中国側の足元をみてこれを牽制すべきか、外相経験も長い岸田首相をはじめ、日本外交の力量が試されている。