中国の習近平国家主席(写真:新華社/アフロ)

(ジャーナリスト:吉村剛史)

 今年5月、習近平国家主席が「愛される中国を目指せ」と号令を下し、国際社会に向けて柔軟路線をチラつかせた中国だが、主要紙が台湾の離島奪取を示唆する過激な社説を掲げるなど、国内の言論状況が先鋭化している。

 中国への過度な刺激を避けようと努めている日本の岸田内閣に対しても、測量艦の領海侵入や爆撃機の日本周辺飛行で応じるなど、その動静は不可解だ。さらに女子テニス界のスタープレーヤー、彭帥(ほうすい)選手がSNS上で、前副首相の張高麗に性的関係を強要されたとの告白したのも北京冬季五輪開幕の3カ月前と、各国の北京冬季五輪の外交的ボイコットにつながりかねない火種としては絶妙なタイミング。

 世界第2位の経済大国のこうした迷走ぶりから、習近平指導部の統制力の低下、足並みの乱れもなども指摘され始めている。

米国議員の訪台を見て前言翻し「離島奪取」に言及する中国

 中国共産党の習近平総書記(国家主席)は、来年(2022年)2月の北京冬季五輪を成功に導き、秋に予定の党大会で異例の3期目入りを目論むとみられているが、党の機関紙・人民日報系の『環球時報』では米議員団の台湾訪問に反発する社説を発表。米台が結束を深めれば「台湾の離島が(中国)大陸に解放される」事態もあり得ると威嚇するかのような過激な主張を展開した。

 台湾本島から離れた東沙諸島などの占拠を示唆したとみられるが、「愛される中国」を目指すはずの習近平指導部の思惑とはかけ離れた同紙社説の発信は、バルト3国の議員団の訪台に関しても同様で、3国の台湾接近への流れをつくったリトアニアを「ゾウの足元のネズミ」などと貶めている。同様の過激さは同紙編集者や外交官らのSNS発信にも散見され、習近平指導部の足元のぐらつきを象徴するかのようだ。