(英エコノミスト誌 2021年9月25日号)

米国のワシントンDCで開かれたクワッド初の対面首脳会議(9月24日、写真:AP/アフロ)

ようやく行動に乗り出したが、軍事同盟の強化だけでは不十分だ。

 10年近く前、米国のバラク・オバマ大統領(当時)はオーストラリアの議会を訪れ、アジアへのピボット(旋回)を明らかにした。

「米国は太平洋国家であり、私たちはここに留まる」と宣言した。

 そして今、米国、オーストラリア、インド、日本の4カ国で構成される「クアッド」の首脳が初めて対面で会合を開き、似たような心理がホワイトハウスで鳴り響くことになった。

 会合では、強引な中国を牽制するための符丁である「自由で開かれたインド太平洋」について話し合うことになっていた。

 このレトリックは馴染みがあるものだが、反応は違うかもしれない。今回は敵味方の双方が、この言葉を信じるかもしれないからだ。

太平洋地域の新たなパワーバランス

 その理由はAUKUS(オーカス)にある。

 米国と英国が少なくとも8隻の原子力潜水艦をオーストラリアに供給するという、先日発表された合意のことだ。

 この合意はその規模の巨大さに加え、一足先にオーストラリアと潜水艦建造契約を結んでいたのにそれを破棄されたフランスとの間で見苦しい口論を引き起こしたことでも波紋を呼んでいる。

 そのおかげで、AUKUSの真の意義が正しく伝わっていない。この合意は、太平洋での新たな勢力均衡に向けた一歩だ。

 同盟関係が、特にドナルド・トランプ大統領の時代に時折脆弱に見えた地域において、米国の態度が硬化していることを示している。

 そして、AUKUSは数十年にわたる長期の重大なコミットメントだ。実際、米国と英国は最重要機密に属する技術の一部を移転することになっている。

 サイバー戦への対応力や人工知能(AI)、量子コンピューティングなども協力の対象になりそうだ。

 この合意をまとめたことについてはバイデン政権の功績を認めるべきだ。とはいえ、この合意は戦略の半分にすぎない。

 米国と中国の関係は、軍事的なにらみ合いだけではない。両国が共存できる道を探るために、米国はルールに基づく経済面での競争と、気候変動など諸問題での協力とを両立させる必要もある。

 欠けている部分には、中国の圧力に最も弱い国がある東南アジア全域が関わってくる。そしてそこでは、米国の政策はまだうまくいっていない。