(英エコノミスト誌 2021年9月18日号)

この世界には、将来性とともに多くの危険も潜んでいる。
懐疑論者が食いつく材料はたくさんある。
例えば、最初に登場した暗号通貨「ビットコイン」を早くから受け入れた人々は、これでドラッグを買った。最近ではサイバーハッカーが、身代金をビットコインで支払えと要求してくる。
今年は、ビットコインとは異なるデジタル通貨「イーサ(イーサリアムの通貨)」のコードの一部にハッカーがバグを見つけた後、数億ドル相当のイーサが盗まれる事件が起きた。
多くの「信者」は実は、暗号資産の価値を総額2兆2000億ドルに膨らませた世界的な熱狂に乗じて手っ取り早く稼ごうとしているだけだ。
一方で、異様に熱心な信者もいる。
今年6月、エルサルバドルがビットコインを法定通貨に採用することを発表した起業家は、これで国が救われると言って、壇上で涙した。
金融システムの新たな生態系の台頭
悪者や愚者、そして改宗を熱心に勧めてくる人々はみな鬱陶しい。それでも、分散型金融(DeFi)という呼び名で知られる金融サービスの生態系の台頭は、真面目に検討するに値する。
期待できる面も危険な面もあるが、金融システムの仕組みをがらりと書き換える可能性を秘めているからだ。
DeFiの世界でイノベーションが多数実現している様子は、ウエブが登場し始めた頃の発明ラッシュに似ている。
オンラインで過ごす時間が今よりも長くなる時代には、暗号資産の革命がデジタル経済の構造さえも作り変えるかもしれない。
DeFiは、金融界を揺さぶっている3つの技術トレンドの一つだ。
第1のトレンドは、技術「プラットフォーム」企業がこのところ決済や銀行業に強引に割り込みつつあること。
第2のトレンドは、政府もデジタル通貨(govcoin=政府コイン)を立ち上げつつあること。
そして第3のトレンドは、DeFiが権限の集中ではなく分散を目指す新たな道筋を提示していることだ。