(英エコノミスト誌 2021年9月4日号)

インターネットとSNSのお陰で陰謀論が一気に世界中を駆け巡り、信じる人の数も急激に増えている

新型コロナウイルスとインターネットが馬鹿げた考えの世界的なブームをあおっている。

 7月下旬のこと。英国政府がCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)に伴う行動制限の大半を解除して1週間も経たないのに、「ロックダウン(都市封鎖)」に抗議するために何千人もの群衆がロンドンのトラファルガー広場に集まった。

 演説したのは、気候変動否定論者で新型コロナを「でっちあげ」だと考えているピアーズ・コービン氏(ジェレミー・コービン前労働党党首の兄)、世界最強の権力者たちは実は「は虫類」だと信じている著述家のデビッド・アイク氏、食生活さえ良ければウイルスを止められると説き、結腸洗浄を勧めるテレビ司会者のジリアン・マッキース氏といった面々だ。

 ある元看護師(偽情報を広めたことで看護師資格を失った)は、ワクチン接種に携わる医療従事者をナチスになぞらえ、絞首刑にすべきだと訴えた。

パンデミックが引き起こした偽情報のツナミ

 このようなデモは、英国だけでなく世界中で普通に見られるようになっている。パンデミックが偽情報の津波を引き起こしたのだ。

 フランスでは、新型コロナは政治エリートたちが「新世界秩序」を打ち立てる陰謀の一環として発明したものだと主張するドキュメンタリーが、3日間で250万回も再生された。

 米国では、新型コロナはでっちあげだという説が「Qアノン」として知られる一連の陰謀論とともに広まった。

 米国政府は小児性愛者の秘密結社によって運営されており、ドナルド・トランプ氏は彼らを倒すよう運命づけられている救世主だと説くあのQアノンである。

 端的に言えば、今は陰謀論の黄金時代だ。

 インターネットのおかげで、陰謀論の拡散はこれまでになく容易になった。貧しい国々でも、少なくとも富める国々と同じくらい普通に流布されている。

 アフリカのナイジェリアでは、2015年から大統領を務めるムハンマド・ブハリ氏は実は2017年にロンドンの病院で死亡し、その後は「ジュブリル」という名のスーダン人の身代わりが大統領になりすましていると多くの人が信じている。

 インドでは、ナレンドラ・モディ首相率いる政権が、スウェーデンの10代の気候変動問題活動家グレタ・トゥンベリさんがインドの紅茶の評判を落とす世界的な企みに手を貸しているとほのめかした。

 2001年9月11日に米国で起きた同時多発テロはイスラエル(あるいは、数人のユダヤ人)が計画した「偽旗作戦」だったという説は、中東全域で広く信じられている。