鉄壁の独裁体制を誇るはずの北朝鮮で、金正恩総書記の権力基盤が揺らいでいる兆候がある。同時に、立て直しにあがく指導部の姿も見え隠れする。そうした中、注目されるのが、現在、金正恩総書記が起死回生策として心血を注いでいる「第3局部網」なる通信網の存在だ。北朝鮮内部で入手した極秘資料を読み解き、この「第3局部網」の現状と、展望について分析してみたい。
◎金興光氏の過去の記事はこちら(https://jbpress.ismedia.jp/search?fulltext=%E9%87%91+%E8%88%88%E5%85%89)をご覧ください。
(金 興光:NK知識人連帯代表、脱北者)
北朝鮮の新ITインフラ「第3局部網」
「第3局部網」が何であるかは、今回入手した北朝鮮側の秘密資料につぶさに記されている。この資料は、今年7月4日、北朝鮮の逓信部(情報通信部門)における党、内閣、軍の関連幹部を招集した現場で、金正日総書記が直々に語ったことを記録した極秘資料である。
それによると金正恩総書記は、情報通信技術の重要性や目標、課題について能弁に語った。発言の中には、北朝鮮が2021年中に北朝鮮全域に第3局部網を構築し、このネットワークを介して、従来のアナログ有線放送である第3放送を、高品質なデジタル有線放送へと切り替えるというロードマップも含まれている。
北朝鮮は今年中に光ファイバーケーブルによる第3局部網の構築を完了させ、デジタル有線ラジオとケーブルTV放送への移行を終えるとしている。そして、都市部はもちろん、地方の隅々にまで、党の指示や意向を素早く伝達し、人民がより文化的で情緒豊かな生活を享受できるよう、環境を整備するのだという。
「第3局部網」は、その名の通り、北朝鮮全域をカバーする第三のネットワークだ。その特徴は、外の世界とは隔絶された、北朝鮮内部だけのネットワークという点にある。それだけに、それを通じて流される放送の内容は、外の世界に直接伝わることはない。
これまで北朝鮮には、2つのネットワークが稼働してきた。一つはコンピュータのデータ通信ネットワークであり、もう一つは移動通信のネットワークだ。ここへ、第三の光ケーブルネットワークを作るというわけだ。
その目的は、これまで利用されてきた古いアナログ有線ラジオを光ケーブル化・デジタル化し、宣伝放送の機能を大幅に向上させることにある。