日本は、1898(明治27)年自家醸造が全面的に禁止され、現在に至っている。禁止された当時の日本は日清戦争から日露戦争へと向かう時代、莫大な戦費が必要だという背景があった。当時、日本の税収のうち、酒税が30%以上を占めていた。簡単に言えば、自家醸造を禁じ、「酒を買って税金をおさめろ」ということだ。

 海外に目を向けると、かつては日本と同様に自家醸造が禁止された国もあったが、アメリカは1933(昭和8)年にワイン、1979(昭和54)年にはビールが解禁。イギリスでは、1968(昭和43)年にワイン、ビールともに解禁されている。

「日本酒の味を知ってもらうために自分で醸造してもらう」という発想

 今、日本で自家醸造が解禁されたらどうなるか。

 まず心配なのは、ただでさえ厳しい日本酒造会社の経営だ。

 日本酒ファンの筆者は思っていた。「解禁してほしいけれど、実現したら酒蔵が打撃を受けるのではないか?」と。

 この疑問に答えてくれたのは、素人向けに「酒造り講座」を開いていた、ある酒蔵のご主人だ。もちろん、その講座は極秘開催である。

「なぜこんな講座を開くか。それは、できるだけたくさんの方が自分で醸してみて、本来の日本酒の味を知ってほしいからです。そうすれば、きっと日本酒が嫌いだった人も好きになり、私たちが作った酒も買ってくれるようになります。

 趣味で作り続けたとしても、かまいません。家で造れる量はしれているし、米や麹代を考えたら手造りの酒はそんなに安くない。何より、私たちプロがそれに負けない日本酒を造ればいいんです」

 これぞプロフェッショナル。なんと潔いのだろう。たしかに、手造りのよさと、酒蔵が本気で仕込んだ酒のよさは別物だ。自家醸造を恐れるより、一人でも多くの人が「醸造」を体験し、発酵したままの酒に触れて「日本酒本来のうまさ」に気づくことが大事だというのだ。