日本文化のひとつであり、世界が注目する『SAKE』となった「日本酒」。地域や銘柄によって味が大きく異なるため、個性を楽しめる分、なかなか選べないと悩んでいる方も多いはず。この連載では、日本各地の蔵元を取材し、日本酒好きが高じて日本酒専門店の開店に携わったライター・加藤恭子さんが間違いなく美味しい日本酒を厳選。日本酒好きはもちろん、苦手な人も楽しめる新しい飲み方、料理とのマリアージュも紹介します。
文=加藤恭子 撮影=加藤熊三
「蔵人も酵母もシメるのが俺の仕事」
とろんと流れる美しい純白のしずく。グラスに注いだそのにごり酒は、頼もしいほど壮大なこくがあり、そしてシャープな切れ味でスッと消える。この味は、何かに似ている。それは……『ゴルゴ13』! 超一流のスナイパー(狙撃手)であり、暗殺者。唯一無二、比類のないインパクトに撃ち抜かれる。
その名は「生酛のどぶ」。醸造元の久保本家酒造(奈良県)は、創業元禄15年(1702)。平成までは大手メーカーの下請けなどの酒造りを中心におこなっていたが、11代目を継いだ久保順平さんが蔵の経営方針を変革。生き残りをかけて「経済効率の悪い酒こそ、小さな蔵にしかできない」と考え、平成15年(2003)、この蔵に杜氏として招かれたのが、日本酒の伝統的な製造方法である生酛造りに情熱を注ぐ加藤克則氏だった。
「蔵人も酵母もシメるのが俺の仕事」、「ゴルゴ13みてえなもんだ」。ぱっと見、コワモテ(失礼!)の加藤杜氏が、じつは10年ほど前の新聞のインタビューで自らそう語っていた。