AI兵器使用による最悪のシナリオ

 ダイナマイトによる大量殺戮が可能になったのが19世紀。20世紀には核兵器が開発され、全人類の滅亡すら可能になるだけの兵器が世界で製造・確保されるようになった。

 そして、火薬、核兵器と続いた軍事技術革命は、AI兵器で新たな革命を迎えることになる。なぜなら、AI兵器は人間を介さないで意思決定するからだ。数千年における人類の戦争史を見ても、人間の意思を介さない攻撃というものはなかった。人類は新たな次元に入ってきていると言ってよい。

 このようなAI兵器であるが、一体どのような変化を我々の世界にもたらすであろうか。

 第一に、戦争における攻撃のハードルが下がることで戦争がより凄惨なものになる可能性があることだ。

 AI兵器は、敵と判断した兵士や武器をことごとく攻撃することもありうる自動殺戮兵器である。敵を殲滅させることにより、本来であれば可能になる和解交渉が難しくなり、怨恨を長期的に生み出す可能性がある。AI兵器によって、分断や排外主義が横行する国際社会を、怨恨により悪化させる恐れがあるのだ。

 第二に、軍事大国の勢力図が変わる可能性があることだ。

 アゼルバイジャンにAIドローンを提供したトルコは地域大国ではあるが、米中露に比べて世界の軍事大国とは言えない国だ。しかし、アゼルバイジャンを含めて、6カ国にAIドローンを提供しているとの報道もある。また、テロリストやテロ支援国家が、AI兵器を活用することで一気に軍事大国化する懸念も消えない。

 開発が比較的困難である核兵器に比べ、手軽なAI兵器は様々な国家に広がる恐れがある。現時点ではAI兵器には制御するための国際的取り決めはない。紛争当事国がAI兵器を無法図に使うなど最悪の事態が生まれる可能性もある。

 第三に、サイバー攻撃を含め、敵の社会全体を麻痺させる可能性も高まることだ。

 AI兵器の攻撃は、何も物理的な攻撃だけではない。サイバー攻撃という形で、敵の社会システム全体を破壊することも目標になっている。

 例えば、我々の使っている電力が、ある日、サイバー攻撃によって稼働しなくなることも起こりうるなど、日常の経済活動にも大きな影響を与える。戦争は、どこか遠い国の出来事ではないのだ。

 実際、2021年5月には、米国の「コロニアル・パイプライン」が、ロシアからと見られるサイバー攻撃を受けて5日間も停止している。サイバー攻撃は、軍事攻撃以上のインパクトを生み出す可能性が高い。

 以上を基に、AI兵器の時代を我々としてはどのように対応していくべきなのか。