「スクリ(アナコンダ)に釣り人が呑み込まれた」と大きな題字で事件を報じたブラジル、マナウス市の日刊紙『DIARIO』。アマゾンに生息するオオアナコンダ(現地名はスクリ。スクリュー、スクリュージとも呼ぶ)は、アジアのアミメニシキヘビと並ぶ世界最大のヘビだ。水中に潜み岸辺のほ乳動物を絞め殺し丸のみにする。(山根一眞所蔵資料)
(注)ネット上では出所不明、虚偽の疑いがある大蛇写真が拡散しているため、本記事に掲載する写真のうち山根一眞所蔵写真や図については出所を明確にするため「Archives of Kazuma Yamane」のバナーを入れてあります。

(山根 一眞:ノンフィクション作家)

 1979年のブラジル、アマゾン取材の際に聞いた、「1950年代に100mの大蛇を撮った写真を見た、軍隊1個中隊が出て機関銃で殲滅した大蛇だ」という話がずっと頭から離れなかった。私は1994年、「奥地に100mの大蛇が出ている」という噂を聞き現地へ飛んだ(参照:「100メートルの大蛇がいる?この目で確かめにアマゾン奥地へ」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65912

 そんな無謀というかバカな行動をとってしまったのは、その4年前の1990年、ブラジル、アマゾナス州マナウス市の新聞にとんでもない大蛇記事が掲載され、それに翻弄されたリベンジ、という思いもあったからだ。

新聞社から高額のオリジナル写真を購入

 1990年12月。マナウス市在住の日系人ビジネスマンで長年懇意にしてきた知人が「地元の新聞の1面トップに人が大蛇に呑まれた写真が掲載された」と、知らせてくれた。追ってその新聞も国際郵便で東京に届いた。

【本記事は多数の図版を掲載しています。配信先で図版が表示されていない場合は、JBpressのサイト(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66129)でご覧ください。】

1990年12月7日付の『DIARIO』(マナウス市発行の日刊紙)(左)1面トップにはトラックの荷台に腹を膨らませたオオアナコンダの写真と横の赤文字で、「Sucuri engole o pescador」(スクリが釣り人を呑み込む)という題字。これはキャッチで、2面(右)に同じ大サイズの写真が「ヘビは殺して食べる」という大きな題字、記事ともに掲載。(山根一眞所蔵資料)
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 記事のあらましは以下だ。

〈マナウスからネグロ川を遡ったウビン湖(Lago do Ubim)で釣り人がスクリに襲われ呑み込まれた。大蛇は人を呑み込んだ重さで動けなかったのか、岸辺にいたのを仲間が見つけ、頭をライフルで撃ち、殺した。夜だったので立ち木に頭を縛ったが、翌朝、13mという巨大さに驚いた。ウビン湖周辺ではしばしば住民が行方不明なっていたが、人間の味を覚えたこのヘビの仕業だったのだ。

 ヘビの専門家たちは物語に出てくるような大蛇は存在しないと言うが、この事実の前には脱帽せざるを得ないだろう。アマゾンのカボクロ(労働者階級の人たち)たちは誰も大蛇の話が好きだが、森林伐採など開発が進むにつれ伝説の巨大怪物たちが出て現実の危険になってきた。信じないなら、黙って襲われるのを待てばよい。〉

(注)新聞記事の見出し、「Sucuri engole o pescador」をブラジルの知人たちは「大蛇に漁師が呑まれた」と読んでいたが、「pescador」は「漁師」を指すがブラジル語では「釣り人」も「pescador」だ。記事の文脈からこの事件の「pescador」は「釣り人」を指していると思われる。