オリンピック競技が10日後に始まるというのに、今でも五輪反対の声が聞かれる。
日本の感染者や死者は外国に比して1桁どころか2桁も少ないが、人命は地球より重いという日本だけあって、唯一人の命も無視できないという意識が強く、反対の声があるのも理解できないではない。
「5月10日に読売新聞が発表した世論調査では〝中止″が59%を占め、組織委幹部も〝読売ですらこんなに…″と衝撃を受けていました」(「週刊新潮」2021.6.3)という。
それでは1964年の東京オリンピックではどうであったのか。
日本で開かれた戦後初のオリンピックの成功物語を耳にし、国民のほとんどが開催に賛成したと思っているのではないだろうか。
しかし、産経新聞の別府育郎記者のコラム「スポーツ茶論」の「『先入観』を疑え」(同紙、令和3年6月29日付)からは、必ずしも支持されていなかったことが分かる。
開催4か月前の世論調査結果は、「オリンピックに多くの費用をかけるぐらいなら、今の日本でしなければならないことはたくさんあるはずだ」とした人が 東京で約59%、金沢で47%あり、「オリンピック準備のために一般市民の肝心なことがお留守になっている」もそれぞれ49%、29%あったという。
「もはや戦後ではない」と経済白書が書いた高度経済成長期であったが、子細に見ればいまだ貧困と向き合っていた国民もいたわけで、そうした視点からの不満も多かったようだ。
今回はコロナ禍という全く思いもしなかった中での五輪となり、期せずして命と天秤にかけられる形になった。