日に何度も銭湯へ通う客のために、月単位通しで入れる「羽書」という1か月間有効のパスともいえる木札を売られていた。その値段148文(約3700円)。
ちなみに現在の東京都の銭湯の料金は大人12才以上で470円、小学生6才以上12才未満が180円。6才未満の未就学児が80円である。
江戸時代、湯を沸かす燃料は薪以外に、ゴミ置き場に捨てられた廃材や川岸から集めた流木や枝などが使用されたため、町の美化にも一役買っていた。
当時の湯屋の浴室には身体を洗う流し場と湯槽の間に柘榴(ざくろ)口と呼ばれる高さが低い、精緻な彩色彫りの鴨居が上部に取り付けられていた。
これは蒸し風呂を兼ねていたため湯が冷めない工夫で、客はその鴨居をかがんで中に入った。
湯屋は一般的に男女入込湯(いりこみゆ)と呼ばれた混浴だった。
浴室内はかなり薄暗かったため、混浴といっても中は薄暗くて人の顔も見えない。そのため、浴槽に入るときには、声をかけた。
式亭三馬の『浮世風呂』によると浴室に入る際には、
「田舎者でござい、冷えものでござい、ごめんなさい、といい、あるいはお早い、お先へと演べ、あるいはお静かに、おゆるりなどという類い、すなわち礼儀である」
「不慣れだから、無礼があったらごめんなさい、冷えた体があたったらごめんなさい」
などと断ってから入るのが湯船に入るのが礼儀とされた。