太古の昔から、戦争、飢餓、疫病が人間の生存を脅かしてきた。なかでも疫病は人間の大敵といえる。いったん猛威を振るえば、犠牲者の数は戦争の比ではない。
米国を例にとれば、戦争・紛争(第1次世界大戦、第2次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、9.11同時多発テロ、アフガニスタン紛争、イラク戦争)を合わせた死者数は1911年から2021年までの110年間で合計45万人弱。
一方、新型コロナウイルスによる総死亡者数は1年3か月で57万人弱(2021年4月末現在)にも及ぶ。
新型コロナウイルス感染症という疫病の蔓延により、わずか1年間で110年に及ぶ米国のかかわった戦争・紛争の犠牲者の総計よりも多くの人命を奪ったことになる。
疫病により国家が衰退、消滅した記録は多い。それは文明が成立し、多くの人が1か所に定住する都市化とともに始まった。
紀元前3500年頃、古代メソポタミアでは数万人の人間が暮らす都市であるバビロニアが誕生すると、そこに疫病が蔓延。
また、紀元前1300年頃のエジプトでは首都アマルナの住民の7割がマラリアにかかり、ツタンカーメン王の死因もマラリアといわれている。
紀元前430年には、アテネで発生した疫病により人口の3分の2が死滅。古代ギリシャ文明を衰亡させた。
アメリカ大陸ではスペイン人が持ち込んだ伝染病によって先住民が激減。
オーストラリア大陸も西洋からの入植者が持ち込んだ疫病などにより当初暮らしていた先住民100万人が20世紀初頭には7万人にまで減少した。
かつて日本で流行した疫病は、天然痘や麻疹、赤痢に結核、そして梅毒などが挙げられる。
奈良時代には九州で発生した天然痘が全国的に大流行し、首都、平城京でも疫病の蔓延により朝廷の政務が停止。
729年から737年までの間、朝廷の政治を担っていた藤原四兄弟(藤原武智麻呂、藤原房前、藤原宇合、藤原麻呂)の全員が天然痘に感染し病死。
この疫病により日本の人口の25~35%である100万~150万人が死亡したといわれる。