3月7日、新型コロナウイルス感染症のパンデミック後に初となる米市民権獲得セレモニーが横須賀の米ミサイル駆逐艦上で行われた(米海軍のサイトより)

 今年2021年、ワシントン現地時間で4月16日13時40分から、菅義偉首相はジョー・バイデン米大統領と初の外国首脳として、日米首脳会談を行い、その後『日米首脳会談共同声明(以下、共同声明)』が発表された。

 これに先立ち、2021年3月6日に東京で開催された、外務・防衛担当閣僚による「日米安全保障協議委員会(2+2)」でも「日米共同発表(以下、共同発表)」が出されている。

 この日米首脳会談の共同声明と「2+2」の共同発表とは、表現の違い、加筆、削除された箇所があり、その点を確認することで、バイデン大統領と同政権が何を日本に求めているか、日本がそれにどう対応し何を要求したかをある程度読み解くことができる。

1.異例の存在感を示すカマラ・ハリス副大統領と希薄なバイデン大統領の存在感

 バイデン政権では、ハリス副大統領が大統領代行とも言える存在感を示している。

 政権成立直後の今年1月に、カマラ・ハリス副大統領は、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、カナダのジャスティン・トルドー首相との電話会談を直接行った。この政権成立直後の各国首脳との電話会談は、これまでは大統領自ら行ってきた。

 日米首脳会談でも、菅首相の到着時にバイデン大統領の出迎えはなく、到着直後まずハリス副大統領と11時5分から約1時間にわたりハリス副大統領の菅首相に対する「表敬」と銘打ち実質的な会談を行っている。

 菅・ハリス会談では、日米同盟の強化、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた同志国との連携・結束、拉致問題解決とオリンピック・パラリンピック開催へのハリス副大統領の支持、イノベーションの原動力である気候変動問題での日米協力、日米経済関係の強化、中米の移民問題の根本原因である貧困問題解決における日米の連携、ハリス副大統領の早期訪日招請などについて話し合われた。

 これらは、首脳会談で合意された内容と重なっており、ハリス副大統領の存在感を示している。特に、中米の移民問題解決はハリス副大統領との会談で出た内容である。

 その後菅首相は、ランチをバイデン大統領とともにせず、午後1時40分からバイデン大統領との会談が始まった。

 米国側としては、バイデン大統領の健康に配慮したためかもしれないが、副大統領との会談直後の昼食に大統領とのランチがなかったというのは、異例の接遇と言える。

 日米首脳だけの差し向かいの会談は約20分と短時間で終わった。

 菅首相は、バイデン大統領とともに政治家としての共通の経歴などについて、出されたハンバーガーに手を付けなかったほど熱心に語り合い、短時間でも互いに打ち解けたと報じられている。

 しかし、通訳を介してわずか20分間話し合い、個人的な話をしただけでは、両首脳間だけの機微な話をするには、短時間過ぎたのではないだろうか。

 その後の会談は約2時間続いたが、バイデン政権の主要閣僚等が陪席し、バイデン大統領がどれほど発言したかは伝えられていない。

 首脳会談全般を通じてバイデン大統領の存在感は薄く、菅首相との個人的な信頼関係は築かれたのか、バイデン大統領自身の対日政策の本音を聞き出す機会があったのかには疑問を感ぜざるを得ない。

 2021年3月に公表されたバイデン政権の『暫定国家安全保障戦略指針』の大統領署名入りの巻頭言も、「バイデン―ハリス政権の下で、アメリカは戻ってくる。同盟は戻ってくる。外交は戻ってくる。」との文言で締めくくられている。

 ハリス副大統領が、本来なら大統領がなすべき各国首脳との直接会談に、しばしば大統領に代わり会談し、大統領の署名文書に連名で登場するのは、単なる偶然とは思われない。

 背景理由として一つには、健康上の不安からバイデン大統領への負担を減らすためとの見方がある。

 バイデン大統領には選挙戦当時から認知症の疑いなど健康上の不安説がある。大統領就任後も、国防長官の名前を忘れ、あるいは専用機に搭乗する際にタラップで躓くなどのトラブルが報じられている。

 米国民の6割以上はバイデン大統領が任期を全うできないとみている。

 ハリス副大統領の責任と期待はそれだけ政権成立時から大きいと言えよう。

 また、民主党内の予備選挙において党内左派の最有力候補だったバーニー・サンダース上院議員に代わり、左派の政策を実現するための目付け役としての役割を果たすために、ハリス氏が副大統領に抜擢された可能性もある。

 ハリス氏は民主党内の予備選挙では支持が得られず早々と撤退している。

 いずれにしても、ハリス副大統領の存在感は無視できず、今後の発言と行動には注目が必要であろう。

 ハリス副大統領は55歳と若く、インド系移民の母親とジャマイカ系の父親を持ち、法曹界の出身である。

 人種差別反対運動、ジェンダー活動の支援者として知られ、国防予算と警察予算の削減など、民主党内左派の主張を掲げている。

 しかし、安全保障政策については、経験もなく知識も不足しているとみられる。マイク・ペンス前副大統領との選挙時の討論会でも、的確な受け答えができなかった。

 もしもハリス副大統領が大統領職を引き継ぎ、あるいは次期大統領に選出されることになれば、その安全保障政策がどのような方向に向かうかには、最大限の注目が必要になる。

 左派的な政策に傾くとすれば、国防予算は削減され、同盟国への軍事的なコミットメントは後退し、同盟国自らの自律的な防衛努力が、より求められることになるであろう。