注射打ちのボランティアを1万人養成
ワクチン・タスクフォースがワクチンの調達を進めるのと並行して、保健省傘下のNHS(国営医療サービス)が1日数十万人規模のワクチン接種計画の準備を進めた。病院、薬局、教会、モスク、サッカースタジアムなど、英国全土に3100カ所以上(イングランドで約1500カ所)の接種会場を設けるには、会場の選定、接種手順の策定、各会場の担当者との打ち合わせ、冷蔵が必要とされるワクチンの通関・輸送方法、データ管理の方法、人員の確保・シフト策定など、相当な量のロジスティクスが必要である。
こうした準備を進めるうちに、去年の夏くらいまでには、医師と看護師の数が足りないという問題にぶち当たり、それを克服するために、昨年10月にヒト用医薬品規制(Human Medicines Regulations 2012)を改正し、医療資格のない人でもワクチン注射を打てるようにした。
英国には、前例や常識にとらわれず、敢然と合理性を追求する文化がある。1970年代の経済危機に際しては、国営企業をあらかた売り飛ばし、1980年代には自国の証券会社がつぶれたり買収されたりするのもかまわず金融市場を開放し、1990年代には電力市場を開放し、電力会社の3分の2が外資になったりした。
注射打ちのボランティアには誰でも簡単になれるわけではない。18~69歳で、大学進学に必要な学業修了認定を受けていることが条件で、応急措置の訓練と実践を行う世界的な慈善団体「セント・ジョン(聖ヨハネ)・アンビュランス」(本部・ロンドン)の申し込みサイトで、志望動機、過去のボランティア経験、過去10年分の住所など、膨大な量の質問事項に回答し、犯罪歴の有無をチェックされた後、約30分のビデオ面接を受けて人柄などを評価され、コロナウイルスの仕組み・免疫の働き・個別のワクチンの特徴や取り扱いや保管方法・アレルギー反応や心臓発作に対する応急措置・被接種者とのコミュニケーションの取り方などに関して8時間のオンライン学習、丸1日の実技研修を受け、試験に合格することが必要で、応募者のうちコースを修了して合格できるのは20%以下と言われる。