接種のやり方も戦略的だった。新型コロナによる死者の4分の3が65歳以上なので、まずそこをターゲットに接種し、さらにワクチン製造メーカーの標準的処方では1回目と2回目の間隔を3週間程度とすべきとされているが、全成人に1回接種を受けさせたほうが、感染抑止効果があると考え、最長で12週間空けることにした(筆者は1回目と2回目は11週間空いている)。これは一種の賭けであるが、感染者数・死者数の推移を見る限り、今のところ成功していると考えられる。

筆者がワクチン接種を受けた地元の薬局(写真:筆者提供)

ただし楽観はまだ禁物

 以上の通り、英国のコロナワクチン接種の成功は、早々と大規模接種計画を戦略的に立案し、それをぶれずに推し進め、ボランティアの力と電子化された行政システムをフル活用した成果である。

 ただし楽観はできない。政府は、ロックダウンの段階的解除で感染者が再び増えると予想しており、状況が順調に好転しなければ、再びロックダウンに逆戻りする可能性もある。

 イングランドで一般の商店が再開され、人々がどっと繰り出した4月12日には、商店内でのマスク着用などのルールを守らせるため、パトロールする警官や自治体職員の姿が普段より多く見られた。去る4月24日にはロンドン市内のハイドパークで、ロックダウンに抗議するデモ隊が警官に瓶を投げつけ、8人の警官が負傷し、うち2人が病院に搬送され、5人が逮捕されるという事件も起きた。

 英国の非常時科学諮問委員会(SAGE)は、ソーシャル・ディスタンシングの維持やマスク着用などは向こう1年間は継続すべきだとしている。今年秋から冬にかけて、新たな感染の波が来るともいわれており、今あるワクチンが次々と現れる変異ウイルスに有効かどうかも定かではないので、治療薬・ワクチンの開発と感染のいたちごっこは当面続きそうだ。