金融手法でワクチンを「青田買い」
10人の運営メンバーからなるタスクフォースの最大の任務は、英国に必要な量のコロナワクチンを確保することだった。ビンガム氏は「任命されたとき、コロナワクチンが果たして完成するのか、それはいつになるのか、まったく分からない状態だった」と述懐している。
そうした状況下、世界に300件程度あったワクチン開発計画の中から有望なものを特定し、第Ⅰ相・第Ⅱ相・第Ⅲ相の各試験(治験)、薬事申請、同承認、製造開始など、研究開発の各段階ごとに「マイルストーン・ペイメント」を行なった。これは一定の目標をクリアするごとに支払われる前払金で、ベンチャーキャピタルの手法だ(開発の見込みがなくなれば、その時点で停止される)。こうして最終的に、アストラゼネカ、ファイザー、モデルナ、ノヴァックス、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどから4億5700万回分以上(1人2回として全人口の約3.4倍分)を確保することに成功した。
またタスクフォースは、約30万人に上る治験ボランティアを集め、治験の分析結果をデータベース化し、ワクチンの開発に役立てた。
要は、でき上るのを待って売ってもらいに行くのではなく、資金を出しながら開発と製造に関与し、青田買いしたのである。英国に限らず、コロナワクチンは争奪戦で、1回目の接種率で世界トップ(62.2%)のイスラエルは、軍の情報機関がワクチン情報を収集し、ネタニヤフ首相自ら米ファイザーと17回の直接交渉を行って、十分な量を確保している。