また、自力で食事を摂ることのできない状態のお年寄りのケアには、食事以外にも細心の注意が必要だ。例えば痰の吸引。
「痰の吸引が間に合わず、もう3人の患者さんが死んでいった」
「ここはもう医療をする所ではない」
そう話す院長の顔は疲労と悔しさでげっそりとやつれてはいたが、その言葉の端々から「悪戦苦闘をしても患者を守る」という医師としてのプライドがはっきりと伝わってきた。
「そりゃ原発も怖いけど、ばあちゃんが心配だから」
お年寄りの患者を乗せたストレッチャーが、廊下に並べられて搬送を待っていた。いつもと同じように看護師の呼びかけが聞こえてくる。
一人のお婆さんの脇で小学2年生ぐらいの少年がお婆さんの手を握っていた。
「原発は怖くないの?」
「それゃー怖いけど、おばあちゃんの方がもっと心配だからここにいる」
と、少年ははっきりとした声で答えた。
(後編「放射能に奪われた営み、『全村避難』に揺れた飯舘村」〈https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64531〉へ続く)