無人の町中を歩き回るのは気味が悪い。そして少し気も引けて落ち着かない。いきなり後ろから肩を叩かれるのではないかと、何度も後ろを振り返ってしまう。
通りの向こうから一匹の犬がヨタヨタと歩いてくる。上目づかいに尻込みしながらも目の前まで寄ってきた。「よしよし」と頭を撫でて手持ちの飴を与えると、バリバリと噛み砕いた。突然姿を消した飼い主を、犬はどう思っているのだろう。きっと飼い主も、置いて来た愛犬を心配しているはずだ。
日本中を不安に陥れている現況をこの眼で
海岸に近づいてみた。津波の被害の跡がはっきりと残っていた。道路のアスファルトが大きくめくれ、橋も通行不能だ。田んぼの中には、流されてきた車がひっくり返り、タイヤが天を仰いでいる。海岸線から直ぐの所に、柿色の屋根に白いモルタルの二階家がぽつんと浮かぶように残っていた。
原発事故は津波で行方不明になった人々の捜索をも困難にしていた。
水が引いた田んぼの中をひとりの頬かぶりをした男性が手に長い棒を持って何かを探すようにゆっくりと歩いていた。男性に声をかけた。
「友達の爺ちゃんが津波で行方不明になっている。警察も手が足りんだろうから、こうやって探している」
そう言うと、彼は所々の瓦礫が集積した場所を棒で突いてはしばらく覗きこむことを繰り返していた。
「やはり自分の眼で確かめないと、何かもやもやするね」
それは私とTさんがどちらからともなく言い出したことだった。
「原発を自分の眼で確かめたい・・・」
今、この町の人々を苦しめ、日本中を不安に陥れている元凶を確かめなければ、福島の置かれている状況を伝えることはできない。