そして、ここ十数年来、ソーラー用地やリゾート用地、資産保有の名目で、また目的不明のまま最も大量に買収されたのは森林、農地、雑種地なのだが、これらの地目は直接的な注視区域の対象にされていない。「大きな意味では含まれるものの、(第一義的な)対象にはしない」という(2021.2.10小此木領土問題担当大臣 衆議院予算委員会)。

 要するに、調査対象は軍備に直結した「薄皮一枚」のエリアだけになるということだ。安全保障や防衛リスクについての所管が防衛省と外務省と見られているせいか。

 しかし現行法制の森林法、農地法には、海外からの買収を想定した安保上の視点はなく、許認可の際にそういった視点での判断は入っていない。農林水産業において、外為法による中止勧告の適用事例は70年間で一件もないのだ。

 今回の新法では、買収が進む国土ついて、おしなべて安保の新しい観点をプラスオンしてチェックしてほしいと願いたいが、軍備にかかる狭い範囲しか調査しないというのは寂しい。

 法成立後に策定される新法の基本方針(閣議決定)で、エリア指定の詳細が整理されるだろうが、その内容しだいで広がりのレベルは変わるだろう。

限界はあるが意義は大きい・・・

 もう一つの論点――規制内容についてだが、安全保障の観点から注視区域の機能阻害を防止するため、調査と利用規制(勧告・命令)が行われる。今後、「どのような利用形態が不適切とされるのか」「安全保障上の視点がどう追加されるのか」。規制のレベルについて引き続き、注目したい。

 一方で、新たな踏み出しもある。調査に対する虚偽の報告や無届には罰則も用意されるというので心強い。また特別注視区域の土地取引に際しては、事前届出が義務付けされるので監視が可能になる。

 しかし、既に買収済の国土については如何ともし難い。利用状況の調査はするだろうが、海外在住で連絡不通の所有者にしてみれば、ダミーにうまく語らせれば乗り切れるし、国の調査者に立ち入り権限等が付与されなければ手も足も出まい。

 新法はまた、各省庁と自治体がもつ所有権情報等を一元的に政府内新組織が管理することで不適切な利用の防止を図る。内閣府の総合海洋政策推進事務局の土地版だ。

 ただこれも、所有者が外国に所在する場合、容易ではない。登記簿と固定資産台帳の二つが頼りだが、登記簿は任意だし、所有者情報は更新されていない。また国への報告を求めようとしても、そもそも相手は不在だし、都合の悪いときには「所有者不明」になる。国税マンや徴税吏員がもつ権限(質問検査権)が海外では通用しないし、海外での外国人→外国人への転売も、日本への報告は外為法省令で実態上ほぼ不要とできる。

 国際的には「租税に関する相互行政支援に関する条約」があるが、締結国(64カ国)の中に中国や北朝鮮は入っていない。英領ヴァージン諸島などは締約国だが、相互支援にはそもそも限界がある。しかも、本条約の対象となる税は国税だけで、地方税は対象外である。

 総じて、新法が意図する規制は、①限られた狭い安全保障エリアを調査するにとどまり、②所有規制や収用にまで踏み込まないものだ。ゆえに列島全土への静かなる侵蝕や、将来のガバナンス不安まで一気にカバーする安全保障対策には至らない。

 そうならざるを得ない特殊事情が我が国にはあるからなのだが、根っ子に日本国憲法(第二九条)や国際約束(条約)など、もっと多岐にわたる根深い問題、宿痾がこの国の土地法制として残っているからだ。これらの問題については回を改めたい。

 今日、安全保障にかかわる分野はエネルギー、水、食、レアアースに加え、医療物資へも広がった。国土はこうした物資はもとより、歴史・文化、知財をも生み出す国家の礎、国富のはずだが、その国土が外国人にとっての資産の移転先となり、真の所有者は不明化し、見えなくなっている。税収はじめ、本来ならば将来にわたって土地(国土)から得られるべきはずの果実を、私たちは徐々に失っている。

「静かなる国土への侵攻を見逃すな」「次の世代に主導権が残せない・・・」。筆者はそう思い続けていて、それゆえ新法案に大きな期待をかけている。今回の新法案は物足りないとはいえ、新法が果たす役割は牽制効果としても大きく、次なる規制を考えるための足掛かりになる。

 事実上の外資土地規制の第一歩――新法の成立を祈りたい。