(北村 淳:軍事社会学者)
フィリピンのドゥテルテ大統領が、アメリカ軍は「米比訪問軍協定」(VFA)を口実にして、スービック海軍基地に各種兵器を持ち込み蓄積しており、やがてはアメリカの基地に転換しようと目論んでいる、とアメリカ側を非難した。
VFAとは、米比相互防衛条約の具体的細目などを定めた、日米安保条約に関する日米地位協定のような位置づけの協定である(本コラム2020年2月27日参照)。スービック基地は1898年以来、日本軍に占領された時期を除いてアメリカ海軍基地であったが、1991年11月にアメリカ軍は撤収してフィリピンに返還された。現在はフィリピン海軍の基地である。
「アメリカは使用料を払え」
ドゥテルテ大統領の非難には、なんら具体的証拠が示されているわけではない。だがドゥテルテ大統領は、アメリカはかつて植民地であったフィリピンを前進拠点とみなしており、南シナ海の覇権を巡って中国と戦争を開始したならば、アメリカの同盟国であり出先機関(とアメリカがみなしている)であるフィリピンは、米中戦争に引きずりこまれるであろう、と指摘した。
さらに、フィリピン大統領府スポークスマンによると、VFAによってアメリカ軍部隊や各種兵器がフィリピンに存在していることによって、米中戦争勃発に伴いフィリピンが攻撃目標になることは確実であるという。要するに、アメリカ軍のフィリピン展開により、フィリピンは損害を被ることになりかねない。