(北村 淳:軍事社会学者)
フィリピンのドゥトルテ大統領が「米比訪問軍協定」を破棄する決定を正式に下し、フィリピン当局は外交ルートを通して米比訪問軍協定の廃棄を米国に通告した。
これにより、通告日から180日後に米比訪問軍協定は消滅し、米国とフィリピンの軍事同盟が実質的に終結する可能性が強まった。
トランプ大統領は、フィリピンとの同盟が消滅しても「これで余分な金がかからなくなる。気にしない」と強気の姿勢を示している。しかしながら、米軍の伝統的な東アジア軍事戦略は、日米同盟、米韓同盟、そして米比同盟が三本柱になってきた。韓国の文政権による離反的行動にプラスして米比同盟が危殆(きたい)に瀕する事態になると、米国の国防戦略が深刻な状況に直面することは否めない。
米国とフィリピンの訪問軍協定(VFA)とは
「米比訪問軍協定」(PH-US VFA: Philippines-United States Visiting Forces Agreement)とは、「米比相互防衛条約」を具体的に実施するための具体的手続きなどを取り決めたものである。日米間に当てはめると、「日米安保条約」をアメリカ側が具体的に実施するための「日米地位協定」に相当する。
ただし、「地位協定」(SOFA:Status of Forces Agreement)は外国の地に軍隊が“長期に”駐留する際に適用される協定であり、VFAは外国の地に軍隊が“一時的に”滞在する際に適用される協定である。
1951年に締結された「米比相互防衛条約」は現在まで継続されているものの、1991年に条約の見直しが行われて在比米軍の撤収が決定された。それを受けて、直ちに91年にはクラーク空軍基地から米空軍部隊が撤収し、92年にはスービック海軍基地から米海軍ならびに米海兵隊部隊が撤収した。そのため、フィリピンに常駐する米軍部隊はなくなった。