露見した大法院長の「ウソ」

 韓国の国会は2月4日の本会議で、釜山高裁の林成根部長判事に対する弾劾訴追案を在籍議員の多数の賛成(179人)で可決、憲法裁判所に送った。弾劾訴追の理由は、「セウォル号」沈没の当日の朴槿恵大統領のスキャンダルを書いた産経新聞ソウル支局長(当時)が名誉棄損で訴えられた裁判で、裁判を担当した裁判官の上司だった林部長判事が、「大統領のスキャンダルは虚偽だったと明確にしろ」と担当裁判官に圧力をかけた、というものだ。

 実はこの林成根部長判事は昨年5月、胆のう切除など健康上の理由により、辞表を提出するため金大法院長の元を訪ねていた。林部長判事は体重が30キロ減り大病を患っていた。辞表を受理するのが人道的見地からも正当であろう。しかし金大法院長は受理しなかった。

 この頃、林部長判事に対する弾劾の動きが国会で起こっていた。文在寅政権になり、李明博(イ・ミョンバク)政権、朴槿恵(パク・クネ)政権時代の裁判の判決を巡り、判事が職権乱用などで起訴されるようになっていた。韓国の報道ではこれまで14人の判事が起訴されたという。前述の産経新聞ソウル支局長の名誉棄損裁判に圧力をかけたとして起訴された林判事もその一人だ。だがこの林判事を含め6人が一審無罪の判決となり、残り8人についての判決はまだ出ていない。要するに、誰一人有罪判決は下っていない。

 この状況にいら立った与党の間で、「裁判で有罪にできないのなら、国会の力で追及してしまえ」とばかりに裁判官を弾劾する動きが起こっていた。そういう状況の中で、起訴されながら一審で無罪判決が出た林部長判事は、体調を崩していたために辞任を申し出た。

 ところが金大法院長は「自分が辞表を受理すれば、(林部長判事の)弾劾ができないではないか」と応じて、辞表を突き返したというのだ。事実であれば、まるで鼻息を荒くする与党の前に、生贄として林部長判事を差し出したようなものだ。

 このやり取りはまず「朝鮮日報」が2月3日の紙面でスクープした。

 しかし大法院は同日、「金大法院長がそのような発言をした事実はない」と否定し、国会にも「弾劾問題で辞表を受理できないという趣旨のことを言っていない」とする答弁書を提出した。

 林部長判事は、当初追加的コメントを控えていたが、大法院が否定のスタンスを崩さないことを見て、ついに決定的な「証拠」を提示した。辞任を申し出た際の金大法院長とのやり取りを録音した43分42秒にわたる音声ファイルを公開したのだ。